00903_企業法務ケーススタディ(No.0231):営業秘密

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2009年1月号(12月25日発売号) に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三の巻(第3回)「営業秘密」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 食品事業部 元課長 印池 幾多郎(いんち きたろう)

営業秘密:
ライバル会社に転職した元社員が、勝手に持ち出した当社の製品コンセプトや企画書やレシピを使って競合製品を作り、当社の顧客先に売り込んでいたことが判明したため、内容証明郵便で警告書を出しました。
すると、相手はこのような回答をよこしてきました。
「脇甘社の顧客先は事業概要にも記載され出回っているし、企画書や製品コンセプトやレシピは守秘義務契約を締結せずに下請先やOEM先に常時開示していたし、秘密でも何でもない。
そもそも、私は脇甘社に対して機密保持義務を誓約した覚えがない」
そこで、当社は、相手と転職先企業に対して訴訟提起をすることにしました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:情報を盗んでも刑法上処罰されない
情報化社会にあっては情報そのものが財産的価値を有しているにもかかわらず、刑法上は、情報の窃盗は不可罰とされています。
従業員が所属企業から情報を窃盗したことが刑事上争われたケースでは、データ自体の窃取ではなく、データを表章したコピー紙や電磁媒体等の有体物の窃取が問題となりました。
また、ハッキング等の問題が事件になったケースについても、データ自体の窃取の違法性は問題とされず、データ窃取の前段階としてシステムに不正侵入したことを問題にしています(「窃盗自体は違法ではないが、住居侵入が違法である」との法的構成です)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:不正競争防止法による営業秘密の保護
企業内で管理される営業秘密に関しては、不正競争防止法が、一定の要件の下に、例外的に情報の持ち出しや利用を禁じています。
法律的に
「営業秘密」
として保護されるのは、
1 公然と知られていない(非公知性の要件)
2 製造技術上のノウハウ、顧客リスト、販売マニュアル等の事業活動にとって有用な情報で(有用性の要件)
3 企業の内部において、秘密として適正に管理されている(秘密管理性の要件)
ものをいいます。
したがって、入手や整理や分析にどれだけ高額な費用と労力を費やしたとしても、その情報がどれだけ大量に盗まれたとしても、公然と知られたものであったり企業内部の管理がいい加減であったりすると、法的には
「営業秘密」
として保護されない、ということになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:秘密管理性に関する裁判例
「営業秘密」
の成否に関しては、秘密管理性がよく争われます。
裁判例(大阪地方裁判所平成19年5月24日判決、判例時報1999号129頁所収)では、
「就業規則に機密保持が謳ってあるので、従業員は保秘義務を負う以上秘密管理性はある」
と、主張した原告企業に、
「不正競争防止法上の営業秘密の要件としての秘密管理性を欠く」
「単に『業務上の機密』というだけではどれがそれに当たるのか明確でないし、また単に『公表していない文書事項』と定めるのみでは、それが漏らしてはならない秘密に属するのか否かを認識させる措置を講じていたとはいえない」
と断じました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「営業秘密」の保護に値する秘密管理の程度
「営業秘密」
としての保護を主張するには、
1 営業秘密の表示
2 機密管理教育
3 開示先から守秘義務契約を徴収
4 従業員から保秘すべき秘密内容をきっちりと特定した誓約書を徴収
等、対象情報に関して厳格な管理をしておく必要があります。

助言のポイント
1.情報窃盗自体は不可罰。どんなに高価な情報であっても、情報が盗まれたこと自体、法的な文句はいえないのが原則。
2.不正競争防止法上の「営業秘密」としての保護要件を充足する企業内機密であれば、従業員の持ち出し行為や利用行為について例外的に責任追及が可能。
3.不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるには、(1)非公知性、(2)有用性、(3)秘密管理性の要件が必要。
4. 裁判でもっとも争われる営業秘密保護要件は(3)秘密管理性の要件。裁判所が想定する管理レベルは非常に高度である。
5.「そんなに大事なものならキチっとしまっておけ」「杜撰な管理をしておきながら、後から文句をいうな」というのが裁判所の姿勢である 。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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