00930_企業法務ケーススタディ(No.0250):海外で訴えられた! その1  外国から訴状送達された場合の対応法

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年9月号(8月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十二の巻(第22回)「海外で訴えられた! ~その1外国から訴状送達された場合の対応法」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
アメリカ合衆国 某

海外で訴えられた! その1 外国から訴状送達された場合の対応法:
法律事務所の代理人と称する外国人が、当社にいきなり訴状を置いていきました。
読むと、当社がアメリカで訴訟を起こされ3日後が裁判期日であることがわかりました。
社長は、法務部長に、すぐさまアメリカに出向き平謝りしてくるよう、指示を出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:国際化とは無縁の司法運営
経済社会がグローバルになったとはいえ、権利や義務に関しての司法運営は、主権国家がそれぞれの縄張りをもつ、という形が取られています。
とはいえ、海外で
「契約違反」

「不法行為」
その他御法度とされる行為をしても日本国に逃げ帰れば一切不問に付される、という話ではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国判決の承認・執行制度
「国際的な紛争が生じた場合、相手方が居住している国まで出向き裁判を起こさなくてはならない」
となると訴訟を提起する者にとってあまりに負担が大きく、また国境を股にかける不届き者を不当に利する結果になりかねません。
そこで、外国の判決を自国の判決と同等であると
「承認」

「執行」
する手続が多くの国で整備されており、日本でもこの手続が存在します。
日本では、民事訴訟法第118条の要件
1.外国裁判所の確定判決であること
2.外国裁判所が管轄権を有すること
3.敗訴被告に手続き上の保護がされていること
4.日本の公序良俗に反する判決でないこと
を充足する外国の判決であれば、特別の手続を必要とせずに
「承認」
されます(自動承認)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:敗訴被告に対する手続き上の保護の有無
よく問題になるのが要件3です。
「訴状送達を外国の作法で行っても有効な手続き上の保護があったとは理解されず、日本国が認めた『送達』方法によるべし」
とされるのです(民事訴訟法第118条2号)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:不適切な訴状送達は無視意味なくアウェーで試合しない
日本国内にいながら外国の訴状等を受け取る場面を想定すると、
1.外国の原告やその代理人から直接訴状が郵送もしくは持参されて届く
2.日本の地方裁判所を通じて訴状が届く
に大別されます。
有効な送達とされるのは2の場合のみです。
ただし1の場合であっても、わざわざ外国で開かれている裁判に出席しに行ったり、答弁書を提出したりした場合は、
「応訴しているぐらいだから手続き上の保護に欠けることがない」
とされ、要件3が満たされると判断される余地がありますので、十分な注意が必要です。

助言のポイント
1.日本の裁判所を経由しない類の外国からの訴状をむやみに恐れて、パニックを起こさない。
2.訴状の正式な送達さえなされていない状況で、準備不足のまま無謀に裁判に臨むのは、愚の骨頂。
3.たとえ相手方弁護士からの英語の訴状に、日本語訳がご丁寧に付いてきたとしても、裁判所を経由しない訴状送達の効力は疑わしい。
4.さっぱり意味がわからない法律問題に遭遇したときには、パニックに陥って「善意に満ちあふれた日本人」の常識で判断せず、きちんとした専門家に相談しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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