本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十四の巻(第24回)「株主代表訴訟のお作法」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同社 顧問弁護士 千代凸 亡信(ちよとつ もうしん)
空有(スキアリ)物産
相手方:
矢見内 政梅(やみうち せいばい)
株主代表訴訟のお作法:
当社に、株主から
「取締役に対する責任追及訴訟提起請求書」
が送りつけられてきました。
株主代表訴訟をおこされては大変です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主代表訴訟
「株主代表訴訟」(正確には「責任追及等の訴え」(会社法第847条 ) )
とは、株式会社において株主が会社を代表し、取締役や監査役などの役員(以下、「取締役」)に対し、その法的責任を追及するために提起する訴訟のことです。
本来であれば、取締役の会社に対する責任追及は、その被害者である会社自身が追及すべきものですが、実際は、会社が身内の役員に対して厳しく責任追及することなど期待するべくもありませんし、責任追及を放置していたら会社の利益、ひいては株主の共通の利益も害されてしまう恐れがあります。
そこで、会社法は、株主自身が、会社の
「取締役の責任を追及する権利」
を会社に代わって行使する方法を認め、これにより会社と株主の利益の回復・確保を図ろうとしたのです。
取締役の責任追及は、まず、株主が、会社(監査役)に対し、株主代表訴訟を提起するよう求めるところからはじまります(取締役の責任追及請求)。
そして、会社法が定める一定の期間(60日)以内に会社が株主代表訴訟を提起しない場合、初めて、当該
「取締役の責任追及請求」
を行った株主が、会社のために株主代表訴訟を提起することが可能となります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:任務懈怠が推定される利益相反取引における手続ミス
設例の場合、社長は当社代表取締役を務めながら、同時に空有物産の取締役を務めています。
この状況において両者間で取引を行う場合、会社法356条の規定上、社長は当社取締役会において当該取引の重要事実を開示し、かつ、社長以外の取締役の決議をもって、当該取引の承認を得なければなりません。
当該取引の実施に基づき会社に損害が生じた場合、当該取引を実行した取締役は
「任務を怠った」
と推定され(会社法423条3項)ることになるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不当な目的による株主代表訴訟を排除する方法
株主代表訴訟においては、印紙代が安いということもあり、中には、経営攪乱や個人的な報復のため、はたまた、不当に会社から利益を得るために、安易に訴訟を提起する者も出てきます。
そこで、会社法は
「責任追及等の訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合は、この限りでない(=訴訟を提起することができない)(会社法847条1項ただし書)」
旨、規定し、株主代表訴訟が、不当な目的を持った株主による提起であることが判明した場合、裁判所は却下判決を行うことができる、としたのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:担保提供命令の申立
会社法は、さらに
「立担保」
制度を設けました。
たとえ、株主が主張していることが真実であり、本来であれば、取締役の責任追及が認められてしかるべき訴訟であったとしても、当該株主代表訴訟が
「嫌がらせのため」
に提起されたものであることを明らかにできれば、株主に対し多額の担保金の提供を命じさせることが可能となります。
「担保提供命令」
が発令されたにも関わらず、一定の期間内に株主が担保金を提供しない場合、自動的に株主代表訴訟は終了することとなります。
助言のポイント
1.株主代表訴訟を恐れない。
2.まずは、真に、会社や株主の共通の利益を図ることを目的としたものか、それとも、単なる嫌がらせ目的といった不当な目的を持ったものか見極めよう。
3.何でもバカ正直に、正面突破作戦で「取締役の責任追及の是非」というややこしい議論を展開し、長期戦に突入してしまうのは愚の骨頂。「訴えの却下を求める本案前答弁」や「担保提供命令の申立」によってスマートにかつ方法も検討しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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