本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2010年12月号(11月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」二十五の巻(第25回)「株式譲渡制限の落とし穴」をご覧ください。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
矢見内 政梅(やみうち せいばい)
獄堂(ゴクドウ)興行
株式譲渡制限の落とし穴:
ある日突然、株主である相手から、
「株式譲渡の承認請求」
「承認しなかった場合には、会社または指定買取人による買取の請求」
がきました。
顧問弁護士に相談すると、
「会社の定款には 『株式の譲渡制限』の条文を書き込んである。
当社は利益分配金がないから自社の株を買い取ることはできないし、指定買取人に買い取らせる義理などないから、理不尽な要求は無視するに限る」
と、いいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株式譲渡自由の原則
わが国においては、私的自治原則の下、自分が所有する財産権を自分の選んだ第三者に移転することは原則自由であり、法令や契約の根拠がなければ、この自由を制限されることはありません。
株式は財産権の一種ですから、株式を誰に譲渡しようと、原則自由ということになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株式の譲渡制限の必要性
株式譲渡の自由のみを認めた場合、これから株式会社を作ろうと考えている者は
「仲間と始めた会社に、将来、ワケのわからない第三者が入ってくるリスク」
を負担せざるを得なくなり、株式会社の設立を躊躇してしまいます。
そこで会社法は、株式の譲渡制限規定を設けることにより、株式会社が設立を促進し、経済の発展を目指しています。
その概要は、次のようになります。
1.譲渡制限株式を譲渡しても、会社の承認を受けなければ、株主名簿の書換えを請求できない(同法134条、133条)
2.譲渡制限株式の株主は、会社に対して、譲渡について承認するかどうかの決定をすることを請求できる(同法136条)。株式の譲渡を受けた者も、同様の請求をすることができる(同法137条)
3.会社は、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)の決議により、承認するかどうかの決定を行い(同法139条1項)、その結果を承認請求者に通知する(同条2項)
4.2の請求があってから、2週間以内に3の決定の結果について承認請求者に通知しなかった場合には、会社は、譲渡について承認したものとみなされる(同法145条)
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:譲渡承認請求を無視した場合
通常、定款には
「株式を譲渡するには、取締役会の承認を受けなければならない」
とだけ記載されていますので、取締役会において、
「承認しない」
決議を行うだけでいいと誤解しがちですが、その旨を相手方に通知しなければ、
「譲渡承認請求の日から2週間後」
には、
「承認したものとみなされる」(裁判になっても、この点については争うことができないことを意味する)
ことになってしまいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:会社又は指定買取人による買取り
会社法では、会社が譲渡の承認をしない場合には会社または会社が指定する者(「指定買取人」)が株式を買い取るように会社へ請求することができる旨が、定められています(同法138条1号ハ、2号ハ )。
会社が自己株式を購入するにあたっては、利益分配可能額を超えることができません(同法461条1項1号)。
したがって、利益分配可能額がない場合は、会社は、自らが買い取る旨を株主に通知することができず、その代わりに、指定買取人に、買取りの通知を承認請求者に対して行ってもらう必要があります。
会社が株主に対して譲渡を承認しない旨の通知をした日から10日以内に、指定買取人が
「買い取る」
旨の通知(以下「買取通知」)を株主に対して行わなかった場合には、株式譲渡の承認請求を無視した場合と同様に、譲渡を承認したものとみなされます(同法145条2号)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:指定買取人は通知前に供託が必要
指定買取人が買い取る場合には、さらなる条件として、買取通知をする前に、1株あたり資産額に買い取る株式の数を乗じた額を供託するとともに、供託を証明する書面を承認請求者に交付することが必要です(同法142条2項)。
助言のポイント
1.会社法では、株式譲渡自由が大原則。
2.会社法が要求する条件を積極的に満たしていかないと、株式譲渡自由原則に従って自動的に処理されてしまう。
3.会社に利益分配可能額がない場合は、指定買取人に買い取ってもらえないと、第三者への譲渡が承認されたとみなされる。利益分配可能額がない状況では、指定買取人の目処をつけておこう。
4.指定買取人は、事前に法律の要件を充たした供託をしていないと、そもそも買取通知を譲渡承認請求をした者に対して行えないから注意しよう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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