00939_企業法務ケーススタディ(No.0259):残業問題その1 金はやるから、君たち、死ぬまで働きたまえ

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十一の巻(第31回)「残業問題その1~金はやるから、君たち、死ぬまで働きたまえ~」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 社員 悪討 正義(あくつ まさよし)

残業問題その1 金はやるから、君たち、死ぬまで働きたまえ:
当社の記念事業プロジェクトが大詰めを迎えますが、従業員は、その準備作業については、就業時間後、残業して、取り組むしかありません。
社長は、
「残業代はいくらでも支払う」
というので、誰も文句をいいません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働時間における法規制
労働基準法(以下、労基法)上、人を雇って労働させる者(使用者)は、当該使用者が人であろうと法人であろうと、原則として、休憩時間を除き1週間に40時間を超えて(1日あたり8時間を超えて)労働をさせてはいけない、との定めがあります(「法定労働時間」、労基法32条、一部の特例あり)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:労働時間の例外
法定労働時間を超えて働かせることができる場合(残業)として、大きく分けて2つの場合を認められています。
1.災害等による臨時の必要がある場合(33条)
人命や公益を保護するために必要な業務や、事業の継続的運営が不可能となりかねない突発的な機械の故障の修理業務などのため残業する場合。
事前に(場合によっては事後に遅滞なく)労働基準監督署に届出が必要。
2.使用者と労働者との間の協議によって、法定労働時間を超えて労働できる時間を定めて労使協定(「三六協定」)を締結し、これを労働基準監督署に届ける場合(労働基準法36条)。
「三六協定」
さえあれば、何時間でも労働時間を延長してよい、というわけではない。
決算業務の時期やボーナス商戦などに伴う繁忙期などが想定される場合は、あらかじめ、
「特別の事情がある場合に、厚生労働大臣が定める限度を超えて労働させることができる旨の『特別条項付き協定』」
を締結すれば、一次的または突発的な労働時間の延長に対応することも可能。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:設例における帰結
設例においては、
「三六協定」
の有無は定かではありませんが、そもそも
「カネさえ払えばいくらでも働かせることができる」
という発想自体が、労基法の趣旨とはまったく相容れないものであり、法令に違反・抵触する可能性が極めて高い状況であるでしょう。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:労働基準法36条違反の効果
「三六協定」
を締結しないまま、法定時間を超えた労働をさせるべく業務命令を行った場合や、
「三六協定」
は締結しているが、取り決め以上の労働をさせる業務命令を行った場合、それらの命令等は違法無効なものとなります。
無論、労働者は違法な残業を前提とする業務命令に従う義務はありませんし、命令を拒否しても解雇理由を構成しません。
以上のとおり、違法な残業に関しては労使間において民事上無効と扱われますが、さらに刑事罰の対象にもなり得ます。

助言のポイント
1.まずは、労働時間の原則と例外をしっかり理解しよう。
2.時間外労働を行う場合には、労働者との協議と協定が不可欠。必ず「三六協定」を締結しよう。
3.「みなし残業代」を採用していても良いが、「みなし残業代」として想定されている以上の時間外労働を行った場合、その超過分の時間外労働に対応する割増賃金の支払を忘れない。
4.労働基準法違反には刑事罰もある。甘くみないこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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