00950_企業法務ケーススタディ(No.0270):事業譲渡の落とし穴

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2012年8月号(7月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」四十二の巻(第42回)「事業譲渡の落とし穴」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
暮外祭(ボガイサイ)株式会社

事業譲渡の落とし穴:
監査法人から紹介された会社との間で、ゴルフ場譲渡に関する交渉がすすんでいます。
相手の会社本体丸ごと買収しようとすれば何十億の資金が必要ですし莫大な借金も引き継ぐことになるため、あえて事業譲渡としました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:商号の譲渡と事業の譲渡とは
会社組織の場合、その名称がそのまま商号になります(会社法6条)。
「事業」
とは、人材・物資・財産・ノウハウ、取引先との関係などを含むその有機的に結合された会社の機能全般を指し、そして
「事業譲渡」
とは、会社の場合において、事業の全部または一部を他の会社に譲渡することをいいます。
なお、商法上、商号だけを単体で譲渡することはできず、原則として事業(営業)とともに譲渡する場合に限られます。
このような事業譲渡は
「会社同士の合併・分割・吸収」
といったような複雑な手続きよりも比較的簡単な手続で実施でき、また、株式を全部取得するといったような
「会社全体を“買う”話」
ではないので、比較的安価な価格で、必要な事業だけを必要な範囲で譲り受けることができる点にメリットがある一方、事業譲渡の対価、
「事業」
に関する取引先との基本契約や、従業員との雇用契約、事業場の賃貸借契約などを1つひとつ締結し直さなければならないといった煩雑さがデメリットとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:事業の譲渡・譲受けに伴う義務
「事業を譲渡する側」
には、当事者間において特別な合意がない限り、事業を譲渡した日から20年間、同一市町村内で譲渡した事業を行うことが禁止されます(会社法21条)。
「事業を譲り受けた側」
は、事業譲渡とともに
「商号」
も譲り受ける場合、原則として
「事業を譲渡する側」
の事業によって生じた債務を負担する義務が生じます(会社法22条)。
なお、
「事業」

「商号」
を譲り受けたけれど、どうしても
「事業を譲渡する側」
の事業によって生じた債務について責任を負いたくない、という場合には、事業譲受け後、直ちに、本店所在地において
「『事業を譲渡する側』の債務については責任を負いません」
との旨の登記を行う方法があります(会社法22条2項)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ゴルフクラブにおける特殊な事情
ゴルフクラブの名称を続用した預託金会員制ゴルフクラブの事業を譲り受けた企業が、
「預託金」
を返還する義務を負担するか否かが争われた民事訴訟では、大阪高等裁判所が、
「ゴルフクラブの会員は、単に、ゴルフクラブ事業とともにゴルフ場の名称を引き継いだだけの会社に対しては、預託金の返還を請求できない」
と判断しました。
しかしながら、最高裁判所は、大阪高等裁判所の判決をひっくり返し、
「事業を譲り受けた側」
は、(旧)商法26条1項(注7)の類推適用により、預託金の返還義務を負うものと解する、と判断しました。

助言のポイント
1.「事業譲渡」によって新たなビジネスを手早く手に入れられる場合でも、メリットとデメリットをよく見極めよう。
2.譲渡会社の「商号」を続用する場合には、債務を負担することになることを肝に銘じよう。
3.どうしても債務負担を避けたいなら、「債務を弁済する責任を負わない」旨の登記を活用しよう。
4.「商号」ではなく、「事業」名を譲り受けた場合でも、債務を負担してしまう場合があることを忘れないこと。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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