本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2013年7月号(6月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」五十二の巻(第52回)「金払わない奴はどこにでもいいから訴えろ!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
韓国 京城商事
韓国 ハムニダ銀行 福岡支店
金払わない奴はどこにでもいいから訴えろ!?:
社長は、ある韓国企業の預金債権を譲り受けました。
しかし、韓国の銀行の福岡支店は、当社に対して預金債権の払戻しに応じません。
日本で裁判を起こすことができるのでしょうか?
裁判を起こせたとして、その裁判によって当社は韓国の銀行から払戻しを受けられるのでしょうか?
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:日本で韓国企業を訴える?!
「法人その他の社団又は財団に対する訴えについて、その主たる事務所又は営業所が日本国内にあるとき…」
は、日本での裁判が可能と規定されており(民事訴訟法3条の2第3項)、 主たる営業所が日本国内にない場合は、日本での裁判はできないようにも思われます。
しかし、規定には多くの例外が認められ、たとえ外国企業であっても、その事務所が日本にあり、その日本の事務所が行っている業務に関するものであれば、日本の裁判所で裁判することができるのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:日本の裁判所=日本法というわけではない
日本で裁判するからといって、必ず日本の法律に従って裁判する、というわけではありません。
本来、契約にどの国の法律を適用するかは、契約当事者間で自由に決められます。
日本企業同士の契約でも、準拠法を韓国法にすることは可能ですし、海上保険の分野では、日本企業同士の契約であっても、イングランド法が準拠法となっていることも多くあります。
当事者間で契約の準拠法を定めていない場合は、裁判で適用される法律を決める法律があります(「法の適用に関する通則法」以下「通則法」) 。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:預金債権の譲り受け
債権譲渡契約において国際的な問題が発生した場合、
「譲渡に係る債権について適用すべき法」
を適用すると規定されています(通則法23条)。
「譲渡に係る債権」
というのは、設例でいえば、京城商事のハムニダ銀行に対する預金債権です。
京城商事がハムニダ銀行に対し預金する際に韓国法に従うことに合意していれば、
「譲渡に係る債権について適用すべき法」
は韓国法ということになります。
しかし、当社が、京城商事と債権譲渡契約を締結するにあたり、
「問題が発生したら日本法を適用するようにしましょう」
としていれば、こんなことにはならなかったでしょう。
助言のポイント
1.日本の裁判所は「どんな事件でもウェルカム」ではないから注意が必要。 管轄が違うと“門前払い”を食らわされる。
2.日本で裁判できるからといって、当然に日本法が適用されるわけじゃない。
3.外国企業との契約においては、「ケンカの際は自国のリングで勝負だ」ときちんと前もって決めておくこと。裁判に関して、アウェーでの勝負はやる前からコスト面で不利が大きく、敗北と同じ。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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