本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十の巻(第70回)「子会社の不祥事が原因で、株主代表訴訟!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
脇甘商事株式会社 個人株主 碇 晋十(いかり しんとう)
子会社の不祥事が原因で、株主代表訴訟!?:
子会社で起こった不祥事の件で、脇甘商事の株主から
「脇甘社長が責任をとれ」
という形で株主代表訴訟の提訴請求を受けました。
社長は、子会社の起こした不祥事は、親会社(役員)として脇甘商事が責任を負うのは当然、と弱り果てましたが、法務部長は、親会社役員が子会社の不祥事に関する責任を負うことはあり得ない、といいます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:会社役員の会社に対する義務及び責任
会社の取締役等の役員は、
「法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければなら」
ず(会社法355条)、また、
「株式会社と役員との関係は、委任に関する規定に従う」
ことから(同330条)、役員は会社に対し善管注意義務を負います。
役員が悪意又は重大な過失によりこれらの義務に反し会社に損害を生じさせた場合には、当該会社に対してその責任を負い(同423条)、さらに、株主は、会社に対して役員の責任を追及するよう求めることもできます(同847条1項)。
以上のようなメカニズムを採用することで、会社法は、原則として、経営に関与できない株主を手厚く保護しているのです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:子会社に関する親会社取締役の責任
役員が会社に対して負う忠実・善管注意義務は、あくまでも当該会社との関係で生じるものです。
会社法上、親会社役員が子会社の業務を管理監督せよという義務規定はありません。
実際の裁判例においても、
「親会社の取締役は、特段の事情のない限り、子会社の取締役の業務執行の結果子会社に損害が生じ、さらに親会社に損害を与えた場合であっても、直ちに親会社に対し任務懈怠の責任を負うものではない」
とされます(東京地判平成13年1月25日)。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:福岡魚市場株主代表訴訟事件
裁判例、子会社に対する親会社の不正融資等が問題となり、親会社株主が親会社役員に対して提訴した株主代表訴訟(福岡地判平成23年1月26日)では、親会社の取締役としての忠実・善管注意義務違反を認めています(控訴審判決も同旨)。
事実関係如何によっては親会社役員が子会社の管理監督責任を問われる場合が十分あり得ます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:改正会社法における多重代表訴訟制度の創設を含めて
親会社役員であっても、子会社の不祥事を認識した時(認識し得た時)には、親会社役員として必要な措置を行わないでいると親会社に対する善管注意義務違反を問われるおそれがあります。
取締役とは、その名のとおり、常に経営上の課題を発見して合理的対処し、会社全般を取り締まることが役割であり、発見され指摘された問題を、偽装したり隠蔽したり、先送りすることは、この役割とは正反対の行動といえます。
有事の際には、子会社の監督のため情報収集を徹底し、必要に応じて、親会社取締役会の対応もしくは子会社取締役に働きかけるなどして、損害発生ないし拡大の防止に努めなければなりません。
平成26年6月20日に成立した改正会社法では、親会社株主を保護するために、その手段として多重代表訴訟制度(親会社株主が直接子会社役員等の責任を追及する訴訟を提起できる制度)が創設されました。
「最終完全親会社の株主」
が、最終完全親会社等が保有する子会社株式の帳簿価額が当該親会社総資産の20%を超えるという意味で「重要な子会社」の役員等に対しては、その責任を追及できることになりました。
助言のポイント
1.「別法人なら、そんなの知らんぷり」というルールも、鉄板ではない。平成26年会社法改正で、状況によっては、子会社の責任を親会社役員として取らされる場合もある。
2.親会社役員が、子会社がヤバイことになった状況を発見しても放置のままだと「親会社の有する財産(子会社株式の価値)を損ねた」という理由で善管注意義務違反を問われる。「ヤバイことになっている」とわかったら即座に、不祥事の原因を調査し相応の措置を講じること。
3.取締役とはその名のとおり、常に経営上の課題を発見して合理的対処し、会社全般を取り締まることがその役割と肝に命じること。発見され指摘された問題の、偽装・隠蔽・先送りは、後日、大きな問題となって、身に火の粉が降りかかることになる。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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