00980_企業法務ケーススタディ(No.0300):株主優待で、株主を釣れ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2015年3月号(2月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」七十二の巻(第72回)「株主優待で、株主を釣れ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ハタカゲファンド社

株主優待で、株主を釣れ!
今度の株主総会において、当社の株式をすでに20%近く取得しているファンドが、社長の対抗馬として別の役員を選任する旨の議案を提出します。
その打開策として、株主らにGeldカード1枚(1万円相当)を贈呈(利益供与に該当しないよう、当社に有利な議決権行使をするか否かに関係なく)することにしました。
株主らが、カード欲しさから早合点して議決権行使書面に賛成としてくれる、という寸法です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:利益供与の禁止とは
会社法においては、会社経営の健全性を守り会社財産の浪費を防止するために、 取締役らが株主らに財産を供与してオーナーである株主の意思決定を歪めることを禁止しています。
「何人に対しても株主の権利行使に関して自己またはその子会社の計算で財産上の利益を供与してはならない」(会社法120条1項)
と規定され、
「株主の権利行使に影響を与える趣旨で」
金品の供与だけでなく、貸与、債務免除、信用供与等を禁止しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:利益供与禁止規定違反の効果
会社が、財産上の利益を供与した場合、その利益の供与に関与した取締役(委員会設置会社では執行役を含む)として法務省令で定める者(会社則21条) は、供与した利益に相当する額の金銭を会社に対して支払う責任を負います(法120条4項)。
取締役の職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明したとしても、この責任を免れることはできません(無過失責任。法120条4項括弧書)。
取締役の会社に対する義務は、株主全員の同意があれば免除されますが(法120条5項)、株主の全員から同意を取り付けることは実際上困難なので、結局は、利益を供与した取締役が責任を免れることは事実上ないといえます。
利益供与禁止規定に違反すると最悪の場合、取締役らは3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処される可能性もあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:モリテックス事件判決
裁判例では、Quoカード(1枚につき500円相当)を総額450万円分株主らに贈呈した行為において、裁判所は、原則どおり利益供与に該当すると判断しました。

助言のポイント
1.利益供与禁止規定の適用は、総会屋などに金品を交付する場合だけではない。
2.利益供与禁止規定に違反した場合、民事責任のみならず、刑事責任も負う可能性があるので注意しよう。
3.経営権に争いが生じている状況下で、株主の議決権行使に対し金品等を交付すれば、いくら体裁を取り繕ったとしても、裁判所に現経営陣の真意を見透かされて、責任をとらされる可能性がある。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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