本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2017年4月号(3月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十七の巻(第97回)「信用供与は慎重にすべし!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
相手方:
成田 金造(なりた きんぞう)
信用供与は慎重にすべし!:
見本市で知り合った相手と取引をする、と社長。
法務部長は、見かけや身なりがよくても信用履歴が不明な会社相手にいきなり多額の売掛取引を行うのはリスクがあるのではないかと諫言しますが、社長は、
「契約書を取り交わせば大丈夫。
相手の気が変わらんうちに、請求書といっしょに商品を出荷せよ」
と息巻いています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:B2B(BtoB)セールスと、B2C(BtoC)セールスのプロセスの違い
企業は、自社で製造するか、あるいは製造元などから仕入れて在庫商品を調達して、適正な利益を付加した売価にて販売し、迅速にカネに転換して、営業サイクルを展開していきます。
これを、
「セールス」
といいます。
B2C取引においては、セールスを実施すると、
「商品(ないしサービス)」
は、すぐにカネに転換されます。
ところが、B2B取引におけるセールスは、互いに契約書を取り交わすことによって商品(ないしサービス)を引き渡す義務を履行します。
売る側は、引渡し義務と引き換えに、現金そのものではなく、
「売掛債権」
を手に入れ、問題がなければ、期限内に買う側の支払義務履行のプロセスをたどって、セールスが完了します。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:売掛債権
B2Cセールスの場合、
商品(ないしサービス)→カネ
に即座に転換されますので、売ればいいだけで、あれこれ考えて機会損失を生じさせるのは、愚かだ、ということになります。
B2Bセールスの場合、現金取引のような特殊なケースを除き、
商品(ないしサービス)→「売掛債権」→カネ
と、間に余計なものが挟まる格好となります。
売掛債権がすべて遺漏なく、遅滞なく、過不足なく、完全無欠な形でカネに転換されれば問題ありませんが、散々待たされた挙句、減額要請があったり、任意整理や法的整理といった倒産騒ぎで、とりっぱぐれ、なんてこともあったりします。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:売掛債権とは無担保債権
売掛債権とは、売主が買主に対して有する
「無担保債権」
にほかなりません。
株式会社同士の取引で、株式会社に対して有する無担保債権ほど、アテにならないものはありません。
株式会社は法人であり、株式会社のオーナーたる株主は、間接有限責任しか負担しません。
ここでいう
「有限責任」
とは、
「会社が破綻しても出資分を放棄すればあとは責任なし」
ということであり、
「無責任」
とほぼ同義です。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:与信管理
あまりに警戒心をむき出しにして、ありとあらゆる取引にビビってしまうと、機会損失が大きすぎ、商売自体が成り立たない、ということもあります。
特に、利幅の大きい商品を扱っていて、ビジネスが拡大基調にある場合など、多少の貸し倒れがあっても、どんどん販売を増やしていくことによって、全体の利益は積み上がります。
与信管理を考えた上で、セールスを行うべきといえますね。
法務と信用管理とは別次元の問題であり、契約書をどんなに精緻にしたところで、債務者の財産状態を確実にしたり、与信の管理状況が改善したりするわけではありません。
助言のポイント
1.B2Bセールスにおいては、商品やサービスと交換に頂戴するのはカネそのものではなく、「売掛債権」にすぎない。
2.株式会社を債務者とする売掛債権とは、明確な責任を負う個人が存在しない「無責任な幽霊」に対する「無担保債権」ともいえる。
3.どんなにリッチにみえても、新規営業先に対する与信管理は適切に行うこと。見かけや身なりだけで、よく実体がわからない、信用履歴も不明な会社相手に、いきなり多額の売掛取引を行うと、焦げ付いて、後で大変な目に遭う可能性もある。
4.新規に大口の取引を展開する場合、段階的に信用を増やす、適切な保証を徴求する、相手の信用力を調査する、取引保証金を設定する、「信用力ある裏書きのある手形」その他厳格な支払手段を求める、といった各種信用補完手段を考えて、適切に対応すること。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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