本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年8月号(7月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十三の巻(第113回)「海外独禁法の恐怖(3)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
脇甘社長の甥 グループ会社 脇甘アメリカ 社長 脇甘 亜米太郎(わきあま あめたろう)
相手方:
アメリカ司法省
海外独禁法の恐怖(3)なぬ!? アメリカでトラブルだと!?:
実践編として、米国の捜査機関(捜査当局や司法当局)の捜査手法について、みていきましょう。
法務部長は、社長にはワシントンの司法省行きは諦めるよう諫言し、そして、脇甘アメリカにはスキャンダルや特別背任罪に問われかねない証拠を隠滅するよう指示をメールで出しました。
社長は法務部長を諫言を受け入れ、行き先を変更することにします。
サイパンやグアムに視察出張に出かける、と言い出しました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:アメリカからの赤紙「サピーナ」
捜査の手始めとして、米司法省の申立に基づき、米裁判所から
「サピーナ(subpoena)」
が、企業の海外の出先機関に送付されます。
その内容は、概略、
「いつからいつまでにカルテルが行われたことが疑われる。だから、その間の関連文書をすべて提出されたい。また、証人喚問も行うので出頭に応じられたい」
というものです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:泣く子も0.5秒で黙過酷な捜査
強制的な証拠開示手続、
「ディスカバリー(discovery)」(合衆国法典第28編1782条)
は、連邦地方裁判所は利害関係人の申立等によって裁判で用いることになる資料の提出を求める(文書提出命令を発する)ことができるというものです。
提出を求める資料はかなり広範でボリュームも相当、企業の担当部署の仕事がしばらくストップするくらい負荷が課せられます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:ムチャぶり提出要求
要求事項は、会社概要に始まり、カルテルを疑われている関連部署の組織図、カルテルが疑われる取引に関与した者や、その上司まで含めた氏名・役職等の情報開示、そして、取引に関する文書やメールのやり取りといった電子データ、社内でのチャットや電話の通話記録などもすべて提出することが求められます。
契約書、協定書や覚書といった、カルテルの合意が示されている文書だけでなく、そこに至るまでの会議の議事録、果ては、メモやノート、図、表、グラフ、写真、マイクロフィルム、ICレコーダーの録音等、音声までもが提出対象になります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「サピーナ」がわが社にやってきたら
弁護士と協議しつつ対応するのはもちろんですが、該当資料を発掘するために専門業者を雇う必要も発生する場合があります。
「サピーナによる文書提出命令」
への不協力(例えば、文書の改ざん、破棄、電子データの削除)は、それだけで司法妨害として刑事罰、しかも重罪(フェロニー:felony)に問われるからです。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:本当に怖いのは提出した後
提出された資料に基づいて証言録取(デポジション:deposition)という手続きが行われます。
証人に宣誓をさせた上で、面前に三脚に乗せた小型カメラを設置し録画しながら、凄腕の弁護士が証言の矛盾点などを突いていきます。
客観的事実に反する証言や、少しでも矛盾点が出たら偽証罪として刑事罰に問われます。
実体的にみて
「本当に罰すべきカルテルがあった」
ことによって処罰されるのではなく、形式的にみて
「単純に矛盾した発言をした」
だけで処罰されてしまうところに、偽証罪の恐ろしさがあります。
実際に、自動車用部品の価格カルテル事件において、名だたる企業が制裁金を課され、12名が逮捕・拘束までされた、との報道があります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点6:油断を突くような捜査手法も
サピーナに基づく強制捜査前に、捜査機関が任意で従業員に事情聴取する
「ドロップイン・インタビュー」
で、
「まだ強制捜査に入ってないから」
と、当局からインタビューを受けた従業員が不用意な供述をしてしまい、知らない間に決定的な証拠をつかまれてしまう場合もあるのです。
助言のポイント
1.「サピーナによる文書提出命令」は広範かつ膨大。改ざん・隠ぺいは司法妨害として、それだけで刑事罰に問われる可能性があるから、隠ぺいなどもってのほか。
2.文書提出命令に対応できた後も、デポジションなど難関が続き、日本の感覚で適当なウソをついて逃れようとすると司法妨害という別の重罪を犯したことになり、逮捕・勾留される可能性がある。実際に日本人エリートビジネスマンが収監された例もある。注意が必要。
3.捜査が始まったら、ウソやごまかしや証拠の隠匿、改ざんはご法度。こんなことをやると、司法妨害をどんどん重ねるだけで、どツボにはまるだけ。センシティブなコミュニケーションは、弁護士と相談しつつ、秘匿特権を最大限活用して、うまく立ち回ろう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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