01023_企業法務ケーススタディ(No.0343):残業代? いらん、いらん、うちは年俸制じゃから!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年10月号(9月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十五の巻(第115回)「残業代? いらん、いらん、うちは年俸制じゃから!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
経営コンサルタント 司保利 尽須(しぼり つくす)

相手方:
当社 従業員

残業代? いらん、いらん、うちは年俸制じゃから!?:
「働き方改革」
という好機を逃す手はないと、社長は考えました。
当社でも、賃金体系に年俸制を導入し、あらかじめ見込み時間外手当込みの賃金を固定しておけば、残業代を払わなくてすむ、というのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:ヒトとモノの区別のつかないニッポン株式会社
厚生労働省が毎年発表する統計によると、わが国の事業場の9割近くが労働法を遵守していない、いい換えれば、
「ヒトとモノの区別がつかず、ヒトをモノのように扱っている」
前近代的組織である、といえてしまう実体が存在します。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:時は「ヒト」なり
労働(雇用)契約とは、この世でもっとも貴重な資源である時間を労働者が切り売りし、それを使用者が買い上げる性質を有しています。
労働契約という取引は、労働者の人生をカネで召し上げるという本質から、厳格な取引ルールによって規制すべき、というのが労働法規の大原則なのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:労働時間の原則と例外
「時間内」
労働時間は法第32条で定められ、法定労働時間といわれます。
「労働者に、週40時間を超えて、労働させてはならない」
「労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない」
と定められています。
原則あるところ例外あり、で、労働法第36条による、いわゆる三六協定を締結することで、経営者は残業をさせてよいのです。
ただし、第37条による割増賃金すなわち残業代を支払う必要があります。
支払わなかったら送検され、起訴され、最悪前科がつきます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:「例外の例外」、残業代を支払わないでいいレアな状況
さらなる例外として、残業代すら支払わなくてよい場合があります。
管理監督者(法41条)がそれに当たります。
そして、純然たる労働者に関しては、次の3つのカテゴリーに当てはまれば、残業代なしで働いてもらうことができます。
1 事業場外労働(法第38条の2):外回りの営業マンや旅行会社の添乗員のように、職場外に出ずっぱりで労働時間を算定しにくい者は、所定労働時間労働したとみなし、会社は残業代を支払わなくてよいとするものです。
2 専門業務型裁量労働制(法第38条の3):研究職、新聞記者、雑誌編集者、デザイナー、放送局のディレクター、大学教授、弁護士など、決められた時間に労働するのになじまない職種や、業務遂行を労働者の裁量に大幅に委ねる必要がある場合に適用されます。
3 企画業務型裁量労働制(法第38条の4):企業中枢で企画立案などの業務に携わるホワイトカラー労働者を想定しています。
以上、いずれも、相応の合理的理由のある場合に限って、厳格な要件充足を前提として認められるものであり、安易に認められるわけではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点5:年俸制ならコミコミプランでいけるっしょ!
「みなし残業代月○時間分込」
という契約も存在しますが、残業時間が見込時間をオーバーした場合は法37条が適用され、使用者には残業代の支払義務が生じます。
労使間で基本給と残業代をごっちゃにした給料を支払うような年俸制を利用して残業代の支払いを免れるのは不可能といっているのです。
なお、第37条に違反した場合は、労働者への残業代および同額の付加金の支払い(要は未払分の倍額を支払わされます)に加え、6か月以下の懲役、30万円の罰金もセットです。
また場合によっては、派手に報道される等レピュテーションリスクもあります。

助言のポイント
1.労働契約には、時間という人生にとって貴重な資源を労働者から買い上げるという性質がある。だから、厳格な取引ルールによって規制すべき、というのが労働法規の本質。この本質を実現すべく、行政当局も司法当局も裁判所も一致団結して労働者に寄り添っていることを理解しよう。
2.「年俸制」などと銘打ったところで、所詮は、基本給+残業代の問題に還元される。サラリーマンの年俸制は、プロスポーツ選手の年俸制とはまったく別物と考えよう。
3.裁判で残業代支払いが認められたら、同額の付加金という、結果して倍額の支払いが発生する上に、懲役+罰金というお仕置きやマスコミに叩かれる可能性も漏れなくついて来るので、十分に注意しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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