01027_企業法務ケーススタディ(No.0347):アクティビストが襲来した!(2)株主名簿の閲覧要求だと!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2019年2月号(1月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百十九の巻(第119回)「アクティビストが襲来した!(2)株主名簿の閲覧要求だと!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
ハーゲン鷹田・アンド・パートナーズファンド (ハゲタカ・ファンド)

アクティビストが襲来した!(2)株主名簿の閲覧要求だと!:
外資系のファンドが、株主名簿を要求してきました。
やむを得ません。
「こういうときは、あきらめと冷静さが大事。
堂々と、みせてやれ。
まあ、みたところで、少数主が動くとも限らない」
と、社長は、株主名簿をみせるよう、法務部長にいいました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:プロキシーファイトとは
プロキシーファイト(Proxy Fight)とは、経営陣サイドに属さない野党(少数派)株主が、株主総会において、会社提案とは異なる、自らの株主提案の可決を目指し、議決権行使の委任状を、他の株主から集める戦い、ないし工作合戦のことをいいます。
わかりやすくいえば、株主総会の議決を巡る、会社の経営陣(与党)と、野党的株主との間の、票取り合戦のことです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主総会のトラブル・今昔~総会屋の場合~
かつて、株主総会における法的トラブルといえば、総会屋と呼ばれる、
「よく通る、大きく、元気な声(関西弁だったり、ダミ声だったりすることもあります)の特殊な株主」
の方々がやってきて、トラブルを起こす、というものが大多数でした。
たまに、核心を突く、意外と良いことをおっしゃることもあるのですが、単に困らせること自体が目的です。
極論をいってしまえば、総会屋の方々がどんなに騒ごうが、粛々と議事進行して決議、閉会までたどり着ければ、それ以上、怖いことはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:株主総会のトラブル・今昔~アクティビスト・ファンドの場合~
アクティビスト・ファンドの方々の手法は、財務資料を隅から隅まで読み込み、会社にどれだけ資金的余裕があるかも理解しているので、メッセージも、明確で具体的でリアリティが充満しています。
株主の欲得に訴える戦略も視野に入れて株主還元要求や増配要求、政策保有株式売却要求、ガバナンス改善(社外取締役送り込み)要求、M&Aの取り止めや条件変更、事業構造転換要求等さまざまなテーマを提起しますので、場合によっては、他の株主の賛同を得て、会社側提案をはねのけ、会社意思として総会で確立されてしまう、現実的恐怖感があるのです。
仮に、アクティビスト側の提案がはねのけられたとしても、株主総会で、相当な株主が会社提案に反対票を投じた場合などには、事実上、会社側の経営スタンスに大きなインパクトが生じますし、いずれにせよ、相当数の反対票を無視して、これまでどおりの平然・超然とした株主無視の経営は困難となりますので、やはり、経営陣として、経営自由度や裁量を維持する上では、アクティビストの動きを放置して、されるがままにやられる、というのはあまりに安直で危険なスタンスといえます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:株主名簿閲覧請求権
株主名簿閲覧請求権は、会社法125条2項に定められている株主及び債権者の権利ですが、会社法125条3項では会社側は閲覧を拒否できる、とあります。
例外規定は解釈の幅が広く、解釈を巡って高裁、最高裁まで争っている間に、時間的冗長性を確保でき、その間に、良い知恵が浮かんだり、状況の変化や、援軍が期待できるかもしれません。
アクティビスト・ファンド自体、ビジネスである以上、一定時間内に成果を上げるプレッシャーがあるので、徹底抗戦の意思を示され、ありとあらゆる場面で応戦され、時間や労力を取られ、コストを消耗するような
「タフな会社」
が相手では、ビジネス判断として手を引く場合もあります。

助言のポイント
1.プロキシーファイトを甘くみていると、会社の方針や経営陣がひっくり返ったり、会社資産の流出を招く意思決定がされてしまう危険がある。
2.プロキシーファイトで勝ったとしても、敵の善戦を許す薄氷の勝利だと、今後も経営の自由度を大きく喪失する。心してかかろう。
3.株主名簿閲覧請求は序の口だが、緒戦だからといって適当に対処しない。手を抜かず、あらゆる方策を検討し、徹底して抗戦しよう。
4.株主名簿閲覧請求には例外規定が明記してある。しっかり検討し、必要ならば応訴覚悟で企業防衛戦を準備しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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