本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2020年1月号(12月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百三十の巻(第130回)「世のため消費者のために、企業同士がくっついて何が悪い!」をご覧ください 。
当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)
同グループ会社 脇甘スマート・ペイメント(「脇スマペイ」)
同社 社外取締役 雅致田 競(がちだ きそう)
相手方:
通話アプリ キャッシュレス決裁会社 フラッシュ・コミュ
フラッシュ・コミュの子会社 フラッシュ・ペイ
世のため消費者のために、企業同士がくっついて何が悪い!:
当社グループのキャッシュレス決裁会社が、同業他社との事業統合を計画し、取締役会で議論したところ、官僚OBで社外取締役から、独禁法上の問題があるので事業計画を見直すよう、反対されました。
結局、事業統合計画は、社外取締役のみ棄権、残りは賛成ということで可決となりました。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:経営統合と独禁法
「各々の会社の、運営コストや、広告やキャンペーンといった無駄なコストが不要となり、手数料は下がりサービス品質は向上するのだから、経営の統合は、消費者にとってメリットしかない」
という社長の話にはそれなりの説得力がありますが、独禁法抵触のリスクのクリアランスを必須課題として議論しておくべきとなります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「無駄な競争を無くして消費者に還元!?」という甘言
例えば、携帯大手3社が事業提携を始めるという共同リリースを出したとしますと、ある程度、学と教養のある人間は、このリリースをみた瞬間、不安と怒りを覚えます。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:競争がなくなった場合に生じる消費者の厄災
先の例えでは、厳然たる事実として、
「ガチンコ競争していた携帯3社の競争環境が劇的になくなる」
ことだけはいえます。
企業という独自の意思を持った独立した生き物の行動習性としては、競争環境がなくなったり緩和されたりすれば、努力をしなくなりサボり始めます。
競争環境が不可逆的になくなると、ライバルもなく、新規参入組も参入障壁のため競争に参加できなくなり、結果として、消費者は
「高くて粗悪なサービス」
に半永久的に苦しめられることになるのです。
このような企業の習性は、資本主義の先進国である米国で、資本主義の
「黒歴史」
として、証明されています。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:独禁法の企業結合規制等の制度趣旨
わが国をはじめとした自由主義諸国が企業に自由活発に営業活動をさせるのは、たくさんの企業が自由活発に活動し、相互に切磋琢磨して、価格競争と品質競争という能率競争を展開することを通じて、
「高くて粗悪なもの」
が駆逐され、国民に
「安くていいもの」
が提供されるようになり、これにより、経済社会が自律的・持続的に発展する、という国益を考えているからです。
他方で、企業は、
「より低コストで、より早く、よりラクに、より大きく儲ける」
という本質的本能を持つため、常に競争をなくし、競争を避けようとします。
企業の本能を効果的に制御して活発な経済発展を企図したところに、独禁法の制度趣旨があるのです。
助言のポイント
1.どんなに、「無駄をなくし価格を下げ、品質を向上させ、消費者のためになる」気持ちがあっても、競争がなくなったり、低下したりするような企業同士のお付き合いや縁談話は、独禁法規制にひっかかる可能性がある。
2.独禁法に違反・抵触リスクがあるような企業結合は、公正取引委員会に、届出、審査をした上でないと、排除措置命令が出されて、さんざん手間暇かけた縁談が破談させられることにもなりかねない。しっかりと規制リスクを踏まえて事業計画を整備すること。
3.「より低コストで、より早く、よりラクに、より大きく儲ける」という本能を持ち、競争を嫌悪し忌避したがる企業一般の行動習性や、資本主義の「黒歴史」も踏まえて、反競争行為規制の本質をしっかりと理解しておく。
4.もっとも、市場の範囲の確定の仕方によっては、「競争に影響を与えない企業結合」と判断される場合もある。きっちりと理論武装して規制クリアランスに臨むこと。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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