以上の形で調査した事実を基に、監督行政機関への報告書を作成することになります。
この報告書の作成ですが、刑事弁護における弁論要旨のスタイルに近いものとなります。
まず調査の上、存否を確定した事実を記載し、これに法律や判例の解釈を述べ、事実に解釈したルールをあてはめて処分の発動の是非を論じます。
この段階で、後日客観的証拠により簡単に弁解が破綻するような、事実の隠蔽等を行うことは絶対に避けなければなりません。
無論、確認できない事実まで積極的に自認する必要まではありません。
監督行政機関側が、自ら調査を行う前に企業からの自主的調査と自主的報告を待つのは、
「企業は虚偽報告をしない」
という信頼があるからです。
この信頼に反して企業側が虚偽報告をすると、適切な監督処分を誤らせる危険が生じます。
さらにいえば、各規制法の中には、虚偽報告を罰則を以って禁じているものもあり、この虚偽報告には事故隠しや隠蔽を含むと解釈されますし、このような解釈の下では虚偽報告により、企業がさらなる法令違反を犯したと見られ、取り返しのつかないことになる可能性も出てきます。
なお、
「企業が会社法や各種判例理論が要求する適正な内部統制システムを構築・運用し、法令違反を予防する確実な体制が存在していたにもかかわらず、今回あくまで所属従業員が個人としてコンプライアンス違反・法令違反を犯したものであり、個人としての責任の有無はともかく、企業組織としての責任がないか、極めて希薄である」
との趣旨の議論は監督行政機関宛報告でも有効ですので、このような点も含めた主張設計を行うべきです。
また、法令解釈についても、時効や除斥期間が経過している行為については意図的に省略するような戦術も検討しなければなりません。
さらに、金融関係の個別業法のように1年に満たない間にめまぐるしく変遷する法令や、過去に政令・省令とは全く異なる局長通達がありこの通達に従っていたため、結果として政令・省令違反が生じるようなケースもありうるので、時系列による規制内容の変遷も含めてかなり詳細な調査が必要となる場合もあります。
そして、以上にかかわらず、問題となった企業の行為が
「クロ」
と判断される場合であっても、刑事弁護における弁論と同様、情状論を展開することになります。
情状論としては、具体的には、過去に発令された処分とのバランス論や、これまで企業として内部統制に取り組んできたことの努力・実績、再発予防のための内部統制システムの見直し、関係者の処分、今回の法令違反により被害を受けた関係者との示談の成立状況等が考えられます。
場合によっては、情状論が、事実認定や法令解釈や法の適用論よりも多くの分量を割いて述べるべき状況も出てきます。
以上のような努力を経てもなお、予想を超えた厳しい処分がなされる場合もあります。
明らかに過去の処分例と均衡を失する場合や、誤った事実認識の下になされた処分が行われたと思われる場合には、
「御説ごもっとも」
の立場で簡単に納得するのは企業として責任ある対応とはいえません。
このような場合には、行政不服審査法に基づく不服審査の申立や、さらには行政訴訟の提起によって、処分発動上の非を糾していくことも積極的に検討すべきです。
これらのアクシヨンについては、中立期間等のアクション開始の期間制限(行政訴訟法上の出訴制限)という問題もあるので、処分内容の予測と、どの程度まで予測を超えた重い処分が出されたら行政処分に対する積極的なアクションを取ることにするか、というところまであらかじめプランニングをしていく必要があります。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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