「コンプライアンス(内部統制)の対象とすべき規範について、法令に限定するか、倫理をも取り込むか」
という点について、学説の状況をみていきます。
日本の学説においては、論点の存在すら意識されていない状況で、論者によっては、コンプライアンス(内部統制)の対象規範について混乱がみられます。
すなわち、上記のような論点について、理論上の整理ができていない論者や混乱して自説の統一性に破綻を来している論者の論説等をみると、
「法令に書いていないことはどんどん積極的にやるべし」
と述べながら、別の箇所で
「コンプライアンスにおいて倫理は重要だから、非道徳的で不健全な方法は、 くれぐれも自重すべき」
などとしており、しかも、このような論理上の欠陥を誰も指摘しない状況となっています。
他方、コンプライアンスの議論が進んでいるアメリカにおいては、エンロン問題が起こる以前から、コンプライアンス、すなわち法令遵守課題と、企業倫理課題とは、概念上峻別して、それぞれ課題として整理すべきことが提唱されてきました(L. S. Paine、Weaverら)。
例えば、Paineは、コンプライアンスを
「非合法的な行為の防止」
を目的として、弁護士その他法律専門家のリーダーシップにより解決・達成する課題と位置づけ、これを
「企業倫理やCSR等の実践」
という経営上の課題とは概念上区別するという前提で議論しています。
その上で、後者すなわち
「企業倫理やCSR等の実践」
については、
「処罰等から逃れるため」
という明確な動機づけが設定できない以上、構成員の価値の共有(value sharing)という実践理念が必要となるが、かかる実践課題は(企業法務活動としてではなく)経営サイドが主導すべき業務として分類します(リン・シャープ・ペイン著、梅津光弘・柴柳英二訳『ハーバードのケースで学ぶ企業倫理―組織の誠実さを求めて』慶応義塾大学出版会等。
なお、同書の立場は、「法令遵守を中核とするコンプライアンス」と「企業倫理やCSR等の浸透」とを概念上区別していますが、両者は相反するものではなく、企業としては、むしろ、両ゴールの達成を目指すべきである、としています。
著者も、この点は賛成であり、「“明確な概念整理”と“明快な所掌区分”を前提とするのであれば、企業が両理念を追求することは差し支えない」と考えます)。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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