2 労働仮処分
労働者が、解雇を争い、職場復帰を裁判で求める場合、通常は、まず仮処分を申立てることになります。その内容は、賃金の仮払いであったり、労働者の地位を仮に定める内容を求めます。
というのは、もちろん、いきなり本案訴訟(本裁判)を実施しても全く差し支えないのですが、訴訟を提起したとしても勝訴するまでの間、会社からは一切賃金が支払われませんので、訴訟解決までの約1年ないし2年間(解雇が相当だったか否かということについて言い分を整理し、証拠を提出し、関係者の話を聞き等していると1年や2年すぐに経過します)、無収入で過ごさなければならなくなります。
そこで、
「本裁判では多分勝つと思うが、その間無収入だと飢え死にしてしまうので、会社に暫定的に賃金を支払うように命令してくれ」
という申立てをすることが認められており、これがこの労働仮処分といわれるものです。
この仮処分という手続ですが、
「迅速に暫定的な命令を出す」
という本来の目的との関係、
「訴訟と同じレベルの主張と立証まで必要とせず、疎明(適当な話と証拠)で発令する」
という建前があります。
しかし、実際には、安易にポンポンと仮処分命令が発令されるわけではありませんし、企業側の言い分も十分聞いた上での判断となります。
仮処分は暫定的命令とはいえ、いったんこれが発令されると本裁判で覆すのは困難になりますので、企業側としても、手を抜かずしっかりと解雇を正当づける主張や証拠をきっちり提出して行くべきです。
仮処分発令の上では、
(1)労働者の言い分に理由が認められる
(2)本裁判前に暫定的に賃金支払を認めるべき必要性がある
という2つの要件が必要となります。
理由面でもきっちり争うべきですが、必要性に関しても労働者の生活状況を厳しく追及すべきです。
例えば、すでにアルバイト等をしていて他に収入があるのであれば、
「必要性なし」
という形で発令を阻止することも有効な防御方法です。
また、発令がやむをえない場合であっても、その期間について極力短期とし、必要性について何度もチェックできる形にもっていくべきです。
なお、仮処分段階であっても、裁判所が和解を勧める場合がありますし、仮処分の審理を担当する裁判所の勧める和解は、調停等とは違い
「言うことを聞かないと、一方に不利な判断をする権限」
を背景にしたものなので、無視して強気でいると敗訴という形でしっぺ返しが来る可能性があります。
決定権を有する裁判所の勧める和解については裁判所が形成しつつある心証に意を払いながら、適正に対応すべきです。
3 本案訴訟
本案訴訟は、通常の民事訴訟と同じです。
ただ、労働裁判の特色を申しますと、裁判所(東京地方裁判所や大阪地方裁判所)によっては労働専門部が設置されているところがあり、当該部の裁判官は高度な専門性を有しており、審理のスピードが早く、企業側の不当な引き延ばし戦略に対しては厳しい態度を取る場合があるので、注意が必要です。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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