約因(consideration)は英米法特有の概念です。
英米商事法辞典によれば、
「契約法上、一方の約束に対する他方の反対給付又は反対給付の約束」
と定義されています。
英米法においては、単なる合意(agreement)が契約(強制力を有するcontract)になるための有効要件として、この約因が必要とされています。
すなわち、アメリカ契約法においては、
“意思の合致(agreement)+約因(consideration)=法的強制力を具備した契約(contract)”
という構造が基本となっています。
したがって、対価ないし反対給付を観念しえない贈与の約束は、原則として、法的強制力をもって保護されません(自然債務と同等の扱いとなります)。
売買契約等の場合には、売り物とその対価たる金銭が交換されるために反対給付が存在することから、約因の問題はほとんど生じません。
しかしながら、例えば保証の場合には、保証料が対価として支払われている場合は別として、約因の存在が争われ、保証人に対して履行を求めても、
「当該契約は約因がないから無効である」
などとの反論がなされるリスクが想定されます。
なお、この
「約因」
問題ですが、いくつか回避方法も存在します。
1 約因を擬制する方法
約因は、例えば、
・一方だけでなく、他方も何かを約束すること
・相手方が義務なきことを行うこと
・権利の行使を留保すること
など抽象的なものであっても差し支えないとされます。
そこで、法的擬制(フィクション)技術によって約因を創出するテクニックにより、
「約因」
問題を回避することが可能です。
例えば、
「In consideration of the mutual agreements contained herein, the parties hereto agree as follows(本契約書記載の相互の合意内容を約因として、当事者は、互いに、以下の合意を行う)」
という文言を契約に記載し、
「本契約によって、一方だけでなく、他方に対して何かを約束している以上、約因がないとはいえない」
というフィクションを用いて約因に関する疑義を解消しておく方法があります。
2 捺印証書(Deed)化による法的強制力の付与
アメリカ契約法理論において、約因を欠いた場合であっても、捺印証書(deed)という形で書面化すれば、法的強制力を与えることができる、とされます。
ここで、捺印証書(deed)の要件は、
・署名
・捺印
・交付
の3つです。
なお、これら要件は相当程度に緩和される傾向にあります。
例えば、捺印に関しては、かつては、
「書類にリボンをつけ、そのリボンを封じる形に赤色の封蝋(seding wax)を溶かして塗る刻印を行う」
という煩瑣な手続が要求されていましたが、州によっては要件として廃止したところもあるようです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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