01460_欧米国際法務>欧米国際法務(フェーズ4)>有事対応フェーズ>外国企業から外国裁判所で訴えられた場合

1 相手国の同意を得ない送達は主権の侵害となる

「X国が、Y国の同意を得ないまま、Y国内で裁判権を行使すること」
はY国の主権の侵害となるため、できません。

そして、訴状を送達する行為も裁判権の行使とされるため、X国は、Y国の同意を得て、Y国の法律に従った送達をしなければなりません。

ところで、英米法体系を採用する国々においては、訴状の送達は裁判所ではなく当事者が直接行うものとされています。

そのため、英米企業等が日本に所在する者を自国の裁判所に提訴する際、自国内での訴状送達と同様に、被告となる者に対して、自ら(場合によっては現地代理人に委任して)訴状を直接相手方に送付するケースが多く見られています。

2 直接交付による送達に関する最高裁判例

この点、日本国の民事訴訟法118条2号では、外国裁判所における確定判決を日本でも執行するためには、
「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
を受けていることが必要であるとしています。

ところで、この
「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
の解釈に関し、最高裁平成10年4月28日判決は、
「被告が現実に訴訟手続の開始を了知することができ、かつ、その防御権の行使に支障のないものでなければならない。また、裁判上の文書の送達につき、判決国と我が国との間に司法共助に関する条約が締結されていて、訴訟手続の開始に必要な文書の送達がその条約の定める方法によるべきものとされている場合には、条約に定められた方法を遵守しない送達は、同号所定の要件を満たす送達に当たるものではないと解するのが相当である」
旨判断し、弁護士による日本企業への直接の訴状送達は
「訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
には該当しないものとして、外国判決の執行を排除しています。

3 直接郵送の方法

次に、訴状が被告企業(日本企業)に直接交付されたケースではなく、直接郵送がなされたケースについて、みていきます。

訴状が被告企業(日本企業)宛に直接郵送された場合、民事又は商事に関する裁判上及び裁判外の文書の外国における送達及び告知に関する条約(送達条約)との関係で問題が生じます。

送達条約10条aは
「この条約は、名あて国が拒否を宣言しない限り、次の権能の行使を妨げるものではない。
(a)外国にいる者に対して直接に裁判上の文書を郵送する権能」
と規定しています。

日本国は、上記条約にいう
「拒否の宣言」
をしていませんので、訴状が
「直接郵送による送達が法律上有効であるとする国」
から訴状が、被告企業(日本企業)に直接郵送がされた場合には、有効な送達となるとの解釈も有力です。

他方、あくまで司法共助の方法によることが必要であるとする学説も有力なところです。

ところで、民事訴訟法118条2号は、
「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達」
を受けた場合の他、被告が
「応訴」
すなわち答弁書等を提出していた場合には、同号の要件が満たされると規定しています。

したがって、直接郵送された場合において、あわてて答弁書を提出してしまうと、同条2号により享受している防御ラインを自ら破壊することになってしまいます。

そこで、直接郵送を受けた場合であっても、拙速に答弁書を提出することは避けるべきです。

なお、最高裁平成10年4月28日判決は、管轄違いの抗弁を提出した場合も
「応訴」
にあたるとの判断を下しているので、注意が必要となります。

運営管理コード:CLBP648TO649

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです