01500_ゴーイング・コンサーン(「企業は永遠の生命を持つ」という前提ないし仮定)は、強引なコンサーン_3

倒産する会社には何らかの共通する特徴が存在します。

弁護士や経営コンサルタント、その他
「会社の中枢と直接コンタクトを持ち、倒産に関わった経験を一定量有する専門家」
が見ると、いかに経営陣が糊塗隠蔽しようが、
「この会社はヤバイな」
という兆しのようなものが見えるのです。

著者の経験したケースを申し上げます。

ある会社は、見た目には順調で、全く問題のない会社でした。

創業から10年も経過していないのに売上は数十億円もあり、どんどん業容を拡大していき、従業員を増やしていきました。

社屋は短期間に何度も引っ越しましたが、引っ越す度に、豪華に、また都心に近づき、これに比例して家賃が高くなっていきました。

ただ、不安や問題点もいくつかありました。

儲かっているわりに、相当古いパソコンを使っており、従業員のメールも大手プロバイダのメールを何人か共有で使い、スケジュール管理はグループウェアではなくホワイトボードでした。

営業上の課題は、新規開拓です。

これには苦戦していました。

新規開拓のために営業を強化しようという意思はありました。

営業計画のようなものも作っていました。

しかし、営業計画の中身は、個々の営業マンに課したノルマをエクセルで集約しただけのものでした。

この会社の営業強化の方向性は、マーチャンダイジング、すなわち顧客をひきつけるような新しい商品やサービスを作るようなものではありませんでした。

営業マンの個人の能力に依存し、ノルマを管理し、気合・根性論系の営業指示を行う類のものでした。

そのせいか、営業マンはしょっちゅう辞めていきました。

とはいえ、大手取引先から定期的に大きなロットの商売をもらっていたせいか、企業として は安定していました。

ですので、新規営業の苦戦があっても、それが会社の苦境につながるようなことはありませんでした。

社長は見栄っ張りで、金遣いも荒かったですが、気前のよさもあって彼の周囲には様々な人物が群がっていました。

しかし、群がっている人物を見ても、同業者や営業マンばかりで、社長の人脈にはあまりパ ッとするような人間がいないことは一目見てよくわかりました。

管理部門は存在せず、法務部門は当然のようになく、法律問題が出てくれば、税理士とか行政書士とか、弁護士資格を持たない外部専門家が、社長に盾つかず、質や信頼性はさておき、機敏に相談に応じ、文書その他のアウトプットを適当に作って寄越してくれる、という状況でした。

社長は常々、
「法務とか顧問弁護士とか、そんな面倒なものは一切いらねえんだよ。そんなもんなくたって、 信頼関係があれば大丈夫。ビジネスって信頼だよ。先生みたいな若い(※当時)弁護士さんにいってもしょうがないけどな」
という趣旨のことをいっていました。

社長室は汚く、特に社長室や副社長室の背面キャビネットは重要な書類が乱雑に突っ込んであり、それでも整理できない書類は、社長室の机の回りに平置きされている状況でした。

そうこうしているうちに、変化がおとずれました。

社業がかなりドメスティックな事業であ ったにもかかわらず、また、海外経験がなく英語もまるでできない社長の口から、
「海外進出を準備している」
「あの大手企業との提携が進んでいる」
「今度裏口上場をする」
「いや、海外で上場する」
「M&Aで起死回生だ」
「特殊なルートから競売がらみの不動産が安く手に入る」
といった類の、いかにも地に足のついていない話が突然出てくるようになりました。

また、その次に社長に会うと、さらに、M&AやSPCやらファンドやらオンバラやらオフバラやら、といった話が出てきました。

詳細を聞いても、
「『又聞き』に『知ったかぶり』が加わった程度の理解」
でしかなく、何とはなしに浮足立った様子が垣間見えました。

で、詳細を聞こうとしたり、あるいは
「ビジネスに一発逆転はないのだから本業を地道にされたらどうか」
と助言すると、
「先生はビジネスのことをさっぱりわかっていない。事業というのは そういうもんじゃないんだよ。東大出たか留学したか知らないが、これだから机の上の勉強しかしてこなかった秀才君はダメだな」
と言い返される始末でした。

周囲でいろいろ助言している連中がどう見てもハイエナじみた顔をしていたので、親切心で契約の中身や詳細を尋ねようとしました。

しかし、そんな進言をしても、却って
「先生も一枚噛みたいの? でも、出る幕ないよ」
と返される始末で、流石の私も放っておかざるを得ませんでした。

そして、このあたりからこの会社の命脈は長くないな、と直感で理解できるようになりました。

結局、これらの気宇壮大な話は、すべて失敗に終わりました。

海外進出の話やM&Aの話をもってきた連中にいいようにぼったくりされたようでした。

会うなり、社長は、
「だまされた。詐欺だ」
と激昂していました。

冷静になった社長から
「アドバイザーやコンサルティングの連中を詐欺で訴えたい」
と今更ながらのお話をお伺い、詳細を確認しました。

ですが、中身を知れば知るほど、
「社長が知ったかぶりで舞い上がっていて一人相撲を取っていただけで、騙された社長が悪い」
ということが明らかになってきました。

「すべて社長が一人相撲で空回りしてはしゃいでおり、それに付き合わされた関係者が相応の手数料を徴収しただけ」
というのが実態だったのです。

法的な意味での権利や請求が構築できるような事案でなく、社長の怒りに付き合って詐欺などと訴えれば、逆にこちらが名誉毀損や不当訴訟で訴えられかねないような類の話でした。

私が理由を述べて
「こりゃ無理ですわ」
と受任を断ったところ、立腹した社長は、
「役に立たない。顧問契約を解除する」
と私に対して言い放ち、それ以来音信不通になりました。

その後、しばらくたってこの会社が破産したという話を聞きました。

運営管理コード:YVKSF012TO021

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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