会社が破産しても、
「『有限責任』しか負わないオーナー」
や
「ビジネスジャッジメントルールにより免責される社長」
が連座させられて破産の浮目を見ることは、原則としてありません。
こういう話をすると、まず
「でも、中小企業が倒産すると、社長も一緒に破産するでしょ」
という1つ目の突っ込みが入ります。
しかしながら、中小企業において社長が会社と同じタイミングで破産するのは、
「船長が沈みゆく船と命運を共にする」
かの如く、
「社長が、経営責任を自覚して潔く自害するが如く破産するから」
という理由によるものではありません。
会社の破産に合わせて社長個人が破産するのは、社長が借入した際、連帯保証したことにより社長個人が負担した債務を負担し、これを払えなくなったからです。
要するに、
「社長は『個人』として負担した借金が処理できないため、『(会社がどうこうという話と関係なく)個人』の選択と責任の結果として」
いわば
「自業自得、因果応報、自己責任、身から出た錆」
として破産するのであって、他人の責任を背負い込まされて連座させられて破産する、というのとは違います。
銀行はバカではありません。
というか、そこらへんの事業会社の社長より、しびれるくらい怜悧で優秀です。
銀行員は、
「株式会社=有限責任=無責任」
という仕組みをきちんと理解しております。
資本主義社会で最も優秀で、狡猾で、猜疑心が強いプレーヤーである銀行は、株式会社という法人、すなわち、「無責任」な人間にカネを貸すようなことは絶対しません。
そこで、銀行は、
「責任者不在のバーチャル人間ないし幽霊」
たる株式会社がつぶれて
「責任者不在」
の状況になったときを想定し、社長とかオーナーから連帯保証を取り付けてからカネを貸すのです。
であるがゆえ、中小企業において会社がつぶれたら、
社長「個人」
とのかねてからの約束に基づき、社長自身が連帯保証責任を負わされることになるのです。
そして、社長は、この
「個人の約束として負担した責任」
が履行できず、破産させられるというわけです。
銀行は、
「中小企業」や「何とか上場を維持しているようなダメ企業」
に対しては、上から目線で偉そうに
「カネを貸してやる」
という立場を取ります。
しかしながら、
「財務内容が超優良な大企業」
に対しては、銀行は、米つきバッタのように頭を下げ、
「できれば当行も是非おつきあいをしてください」
と卑屈な態度を取ります。
当たり前のことですが、銀行が
「財務内容が超優良な大企業」
にお金を借りていただく際に、
「社長の個人保証をつけてくれ」
などと無礼で非常識なお願いをすることはありません。
したがって、債務者が
「財務内容が超優良な大企業」
については、中小企業と違い、
「会社がつぶれても、連帯保証を強要されない社長は、一切責任を負わない」
という状況が生まれるのです。
東日本大震災で原発事故を起こした東京電力も、少なくとも事故以前は
「財務内容が超優良な大企業」
とされてきましたから、東京電力の社長や会長は、銀行から借金するにあたって個人保証を要求されていないでしょう。
したがって、仮に東京電力が破産ないし破綻して銀行の債権が焦げつこうが、社長や会長の私財が差し押さえられたりすることはなく、また、個人として破産させられることもありません。
次に、先程の話(「会社が破産しても、オーナーや社長も連座して破産するとは限りません」)に関しては、
「とはいっても、会社が倒産すると、社長や役員が代表訴訟で訴えられたり、逮捕される場合があるぞ」
という2つ目の突っ込みが入ります。
しかしながら、会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、
「会社が倒産したという結果に基づいて連座して責任を取らされるから」
という雑で単純で強引な理由によるものではありません。
会社が破産した場合に、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、会社経営において取締役「個人」として明らかな法令違反をやらかしたことによるものです。
すなわち、取締役が逮捕されたり、代表訴訟で訴えられたりするのは、個人の違法行為を個人としてケツを拭かされているだけであり、
「会社が倒産したことに伴って連座させられる」
のとは違います。
以上のとおり、世間一般のイメージとは逆で、会社には責任者がおらず、結構テキトーに経営されています。
だからこそ、会社というものは、一般の方が考えられるよりはるかに簡単に、あっさり、さっくり、しれっと破産してしまうことがあるのです。
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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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