01520_「倫理や社会貢献や政治が大好きな企業」の末路

「情熱派で正義感の強い企業」

「亜種」
として、倫理や社会貢献が大好きで、これを社員にも強制する企業もあります。

まず、不祥事を起こした企業は、将来の不祥事を予防する方法として企業倫理を徹底させる、ということをよく表明します。

しかしながら、倫理というのは人によってその内容が異なるものであり、その内容を明らかにしないまま、
「倫理が重要」
と抽象的に唱え、あるいは唱えさせたところで、不祥事予防効果は上がりません。

あるとき、総会屋に違法な利益供与が発覚し某自動車メーカー(仮に「M自動車」といいます)は、その際、不祥事根絶を謳い、企業倫理を徹底する、と固い決意表明をしました。

しかしながら、
「何が企業倫理に該当し、それがどのようなメカニズムで企業内に浸透し、その浸透具合や達成度合をどのように科学的・定量的に計測するか」
については一切考えることはしませんでした。

「企業倫理を徹底する」
という営みの具体的内容ですが、
「高名な学者や弁護士や官僚OBを高給で雇って社外の御用機関を立ち上げ、そこに倫理○ケ条を制定させ、それを印刷したカードを大量に作り、従業員に携帯させる」
なる陳腐で雑なもので、科学的な方法論ではなく、気合、根性、精神論でがんばる、という程度に総括される代物でした。

結果、M自動車は、その後、数次にわたるリコール隠しを行い、挙げ句、最後には、企業倫理の旗振り役であった社長自身が逮捕され有罪判決を受ける、というお粗末な結果になりました。

倫理という
「得体の知れない非科学的なもの」
を強調する会社は、
「気合・根性で売ってこい」
という会社と似た空気があり、企業として今後も成長し、発展するか、というとやや疑問に感じざるを得ません。

また、社会貢献に関しても多くの企業は重大な誤解をしています。

企業の存在目的は営利の追求であり、企業の最大かつ唯一の社会貢献は、効率的な営利追求と、これに基づき、極力多くの額を納税することです。

社長の個人の趣味嗜好で社会貢献をするというのであれば、それはそれで結構です。

しかし、
「営利追求と納税を使命とする本来の企業活動を阻害しあるいは停滞させてまで社長個人の趣味を優先する」
というムダなことをしていて、過酷な競争社会で企業として生き残れるとは到底考えられません。

社会貢献とは趣が異なりますが、社長個人の主義主張を基礎に、企業として特定の政治活動を支援するという場合もあります。

具体的には、企業献金、すなわち、企業が特定の政党に献金する、という事象が見られます。

しかし、企業が、何ら見返りを求めずに政治献金するのであれば当該献金を行った経営幹部は背任罪を犯すことになりますし、何らかの見返りを前提として政治献金を行うのであればこれは贈賄罪を犯すことになります。

このように、いずれの場合も、
「法令に違背しないで、営利を追求する」
というミッションをもった企業が特定の政党を金銭面で支援する、というのは、企業の本来活動にそぐわないものでありますし、こういう活動に貴重なお金を注いでいる企業の命脈もあまり長くないのではないか、とも思えます。

運営管理コード:YVKSF129TO133

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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