江戸時代以前から、
「○○御用達」
というものが商人のブランドの1つを形成してきたことからも判るように、
「役所から仕事をもらえる」
ということは商売人にとって一種のステータスとなっていました。
公共工事その他の役所とのビジネスというのは、BtoB取引の中でも最も大きな法人組織相手の取引(その意味では、BtoG、Business to Governmentとでもいうべきでしょうか)ですが、取引発注者の予算が無制限であることもあり、どことなく
「役所と取引があるということは企業の安定の証」
という考え方が今でも、ビジネス界の中にあるように思われます。
しかしながら、
「取引先が特定の企業に依存していることは危険である」
という話は、仕入れ先や取引相手が
「官公署」
という場合も同様にあてはまります。
赤字国債が連発され、財政破綻の危険が具体化する中で、民主党政権下になって、事業仕分けというものが大々的に行われるようになりました。
現在の財政上、もっとも重荷になっているのは間違いなく公務員の人件費です。
その意味では、財政健全化において、公務員、特に地方公務員の削減こそがもっとも急務の課題と言えます。
かつて、民主党が政権を担っていた時代がありました。
民主党も、公約として、財政健全化を掲げていたところから、民主党なりに正しいと考えた財政健全化策に着手しました。
前述のとおり、財政健全化において、公務員、特に地方公務員の削減こそがもっとも急務の課題であることは、知性を働かせれば、だれでも理解できる事柄でした。
同時に、自治労が支持母体である民主党に、財政健全化策として、地方公務員の数や人件費に手を付けることを期待しても無理であることもまた、誰の目にも明らかでした。
結局、民主党は、
「パフォーマンス」
として、
「事業仕分け」なる財政健全化策
を行うことでお茶を濁すこととし、その矛先は、
「切り捨てても文句を言わないところ」
すなわち、官公署や独立行政法人との取引を行っている業者に向かうことになりました。
すなわち、民主党が行った
「財政再建パフォーマンス」
としての
「事業仕分け」
は、官公署や独立行政法人と民間企業の取引を止めたり合理化したり、という方向に行き着くことになります。
このように、官公署との取引に依存している企業は、取引相手方たる役所の都合によって、突然、取引自体が消失したり、消失しないまでも相当程度、規模を縮小することになったりして、不幸に見舞われることがあり得るのです。
また、コンプライアンスという観点からも、役所は些細な不祥事であれ、少しでも問題があれば、問答無用で取引を停止します。
すなわち、談合その他の法令違反があれば、軽重を問わず、指名停止扱いとなり、以後、役所との取引から徹底して排除されることになります。
役所からの仕事に依存しているような企業がこのような事態に直面した場合、その企業の命脈は直ちに尽きてしまいます。
実際、筆者が仕事として経験した事案ですが、ある会社において、地方の一営業所の営業マンが自治体職員を接待する、ということが明るみになり、これが贈賄事件に発展して、新聞に報道されてしまいました。
それからまもなく、当該自治体のみならず、ほかの自治体の取引も一切できなくなり、役所からの発注に依存していた主要営業部門が機能停止に陥りました。
その会社は、役所依存から脱却しようと、民間からの受注も開拓していた矢先であったのですが、結局、主要営業部門の取引停止をカバーするだけに成長しておらず、たちまち破綻状態に陥りました。
結果、会社は、再生を断念し、破産に至ったのです。
役所と取引するのは大いに結構です。
しかし、役所との取引の依存割合が極度に高いと、役所の予算の都合で突然取引そのものが廃止されたり、些細な事件や事故がきっかけで事業が全て停止に追い込まれる危険があるのです。
したがって、漫然と役所からの受注に全て依存するというスタンスの企業は、企業の行く末に大きな危険をはらんでいるものといえます。
初出:『筆鋒鋭利』No.95、「ポリスマガジン」誌、2015年7月号(2015年7月20日発売)
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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