01619_企業法務部員として知っておくべきM&Aプロジェクト(10)_M&Aプロジェクトを成功させるためのポイントその6_(C)M&Aプロジェクトの全体的な戦略の合理性(ⅰ)_総論

「戦略が大事だ」
「戦略的に考えよう」
「チミには戦略というものがないのかね(怒)」
「ウチの上司はバカで、戦略センスとかナッスィングで、ホント、困っちゃうよ~」
とかなんとか、という形で、この
「戦略」
という言葉、本当に巷でよく耳にします。

しかし、また、この
「戦略」
という言葉ほど、曖昧で、無内容で、誤解されているものはありません。

私なりの理解ですが、
「戦略」
というものは、
「様々な環境要因や制約条件のなかで、現実的に達成可能な目的を決め、合理的に筋道を立てて、最小限の犠牲で、目的を段取り良く、達成するための方法論」
というものです。

戦略論の大家・ビッグネームといえば孫子(孫武)ですが、その
「孫子イチオシの最強の戦略」
は、
「三十六計逃げるに如かず(三十六計逃げるが上策なり)」
といわれるものです。

要するに、
「逃げるが勝ち」
「逃げて逃げて逃げまくれ」
ということですが、
「意識高い系の自信過剰な方々が多用する『戦略』という言葉のもつ、中世ヨーロッパの騎士道のようなヒロイックでロマンチックなイメージ」
とは、真逆の、
「姑息で卑怯で下劣でリアルな方法論」
が、軍事思想の大家の壮大な思索の結果の最終解、というのも、皆さんにとっては違和感があるかもしれません。

しかし、私個人としては、多いに納得しますし、とくに、投資や金儲けについていえば、この
「逃げることをベストとする戦略」
が最強であることは疑いようもありません。

すなわち、投資でカネを増やすコツは、
「勝ち逃げ」と「損切り」
につきるのです。

「意地やプライドや沽券で勝負を続けるのではなく、勝っているあいだにとっとと戦果を得て退却し、負けたらボロ負けしないうちに逃げちまえ」
という身もフタもない方針です。

逆に、勝ちに慢心していつまでも戦場に残っていると、想定外の事態に見舞われ制御不能のまま元本割れという憂き目にあうことになりかねませんし、損切りのタイミングを逸すると、特に信用売買や先物をやっていると、最悪、全財産を失い破産することもある、というのも経験上理解されている現実です。

M&Aも同様であり、
「いかにして逃げるか」、
すなわち
「出口戦略」
がもっとも重要な戦略の根幹を形成します。

まあ、いってみれば、M&Aも、企業を取引対象物とする金儲けのための取引の一種に過ぎませんし、株取引や不動産売買と同様、
「安く買って、とっとと高く売りつけ、しこたま儲ける」
という経済活動の手法の一種に過ぎません。

ところが、日本の多くの残念な企業がM&Aでやっていることは、出口戦略を描かず、うまくいかなかった場合の想定(ストレステスト)すらおこなわず、
「妄想満載のバラ色の未来が永遠に続くこと」
だけを身勝手に思い描きつつ、無警戒に、エントリーし、出口のない閉塞状況に追い込まれ、貴重な時間とカネとエネルギーを消耗し続ける、という愚劣極まりないことです。

では、具体的にどういう戦略にもとづき、M&Aという
「イレギュラーでアブノーマルな取引」
を遂行することが、推奨されるのでしょうか。

初出:『筆鋒鋭利』No.111-1、「ポリスマガジン」誌、2016年11月号(2016年11月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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