01618_企業法務部員として知っておくべきM&Aプロジェクト(9)_M&Aプロジェクトを成功させるためのポイントその5_(B)PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業(ⅲ)

01617に引き続き、
(B)PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業
に関する日本企業の失敗やしくじりのメカニズムを解説させていただきます。

06167では、M&Aを結婚になぞらえながら、
「結婚が、結婚後の生活について現実的な生活設計がないまま、若気と霊感の赴くまま、ノリで結婚に突入する、と失敗することが多い」
のと同様、M&Aも
「現実や打算や計算を抜きに、天啓や霊感や神のお告げだけでM&Aを猛スピードで敢行すると失敗する可能性が高い」
という趣旨のことを申し上げました。

ところで、戦後以来、離婚率がものすごい勢いで増加しているようです。

熟年離婚がテレビ等で取り沙汰されていますが、若い世代の離婚に比べれば、熟年離婚の数自体、必ずしもしびれるくらい多いとはいえないと思われます。

といいますのは、離婚には、相当エネルギーが必要で、年を取って、くたびれきっている世代には、過酷なプロジェクトとなるからです。

加えて、離婚をすると、家計単位が分割されるので、経済的には両者にとってマイナスになります。

2人で暮らしていれば、1つで足りていたテレビやクーラーや冷蔵庫やアパートが2つ必要になる、ということを考えれば明らかに想像できます。

しかも、熟年世代は、年金暮らしあるいは年金支給待機という方も多く、要するに、
「カネ」
がありませんので、不倶戴天の仇敵という関係でもない限り(そんな関係だったら、そもそも結婚したこと自体摩訶不思議というべきです)、理想的なシェア・エコノミーが成立し、効用面でメリットのある生活関係をわざわざ不合理かつ不経済に変更する必然性は乏しいはずです。

で、若い世代の離婚率が一貫して増加傾向にあることについてですが、この理由について、私は、
「特に、女性にとって、悪い方向での想定外が連続するから」
という状況によるもの、と推察します。

シンデレラというお話をご存じでしょうか?

作者は、ウォルト・ディズニーというアメリカのオッサンではありません。

ディズニーさんは、擬人化されたネズミとその一派たち以外、実はあまり純粋オリジナルコンテンツはありません。

シンデレラも、白雪姫も、人魚姫も、ムーランも、いってみれば全部合法的に余所からパクったものです。

だからといって、ディズニーのコンテンツをパクったら、タダでは済みません。

ディズニーは、自分は結構余所から(合法的にですが)パクっていますが、自分のものをパクられるのは厳しい、という
「自分に優しく、他人には厳しい」
という経営という点で立派というかシビアな企業なのです。

脱線しましたが、シンデレラの作者は、ディズニーではなく(アメリカの方々の多くはディズニーがオリジナルで作ったと誤解しちゃっているかもしれませんが)、グリム兄弟というドイツの童話作家です。

で、このシンデレラというお話、かいつまんで説明すると、

・ボロを着て、カネも余裕もなく、炊事・洗濯・ムカつくガキの世話等、毎日毎日家事全般させられ、休む間もない赤貧生活をしていた不幸な女性が、
・やがて、悲惨な現実の世界」から「ロマン満ち溢れる世界」へ段階的に移行していき、
・最後は、壮大な結婚式を挙げ、皆の祝福を受け、幸せの頂点に到達する、

という話です。

ところが、日本の若い女性が体験する一般的な結婚生活というのは、この
「シンデレラ・ストーリー」
の、見事なまでの逆回転バージョンです。

すなわち、

・出会ってまもなく、壮大な結婚式を挙げ、皆の祝福を受け、幸せの頂点に到達した女性が、
・やがて、「ロマン満ち溢れる世界」から「悲惨な現実の世界」へ段階的に移行していき、
・何年か後には、ボロを着て、カネも余裕もなく、炊事・洗濯・ムカつくガキの世話等、毎日毎日家事全般させられ、休む間もない赤貧生活に陥る

という、悪い意味での想定外の連続のストーリーを経験します。

こういうことがあると、離婚したくなるのも、うなずけます。

M&Aも、同様の傾向にあります。

M&Aという取引が成立する時点においては、あらゆる不愉快な想定が度外視され、
「この取引が成立しさえすれば、バラ色の未来が訪れる」
というロマンと希望とファンタジーに満ちた想定を関係者全員共有し、取引実現というその瞬間だけを目指して、そこに、カネと労力とすべての勢力を注ぐ熱狂が先行します。

しかしながら、M&A取引が成立し、熱狂が過ぎ去り、
「宴の後」
となった時点以降のプランやシナリオは、なんとなくおざなりになっています。

一応、その種の計画は想定されてはいるものの、華々しい、夢のようなシナジーシナリオを描き、熱狂して神輿を担ぎ、横で声援を送り、脇で踊り狂っていたM&A支援プロフェッショナルは、祭りが終わるといなくなって(別の祭りに行っている)、残ったのは、
「M&A当時は素晴らしく魅力的にみえたものの、よくみりゃ、たいしたことのない、あるいは、お荷物として足を引っ張るしか能が無い、どうしょうもないガラクタ企業」
という状況だったりします。

結婚はともかく、M&Aについては、あまりアホな失敗が続くと、東芝やパナソニックや丸紅のように、企業そのものが傾きます

ノリや熱狂も大事ですが、そんなことより、M&Aが終わった後、その後、長く、長く、長~く続く、投資回収までの道のりを、どういう現実的な方法で達成していくのか、ということを、ドライに、クールに、スマートに考えるべきといえます。

ただ、M&Aが下手くそな企業の幹部のメンタリティーは、
「将来的な生活設計も乏しいままノリとアツさだけで結婚に突進した挙句、神の速さで破綻する若いカップル」
のそれとあんまし変わらないせいか、前記のようなドライかつクールでスマートな思考を完全に欠如しているがゆえに、失敗し、失敗し、失敗しまくるのです。

初出:『筆鋒鋭利』No.110、「ポリスマガジン」誌、2016年10月号(2016年10月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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