01626_企業法務部員として知っておくべきM&Aプロジェクト(17)_M&Aプロジェクトを成功させるためのポイントその10_(C)M&Aプロジェクトの全体的な戦略の合理性(ⅷ)_(g)命令の達成状況を確認する

01625では、
「正しくデザインされ、策定され、発令した命令」
が、
「漫然と成果を待っていただけでは、永遠に正しく実行されないまま放置されるか、あるいは、本来の方向とは違った方向に進みだして、有害な結果をもたらすリスクが増殖する」
ということを指摘し、
「正しい命令が、正しく実行されるためのスキル」
をご紹介しました 。

そして、
「正しい命令が、正しく実行されるため」
には、この前提として、命令の達成状況が適時適確にモニタリングされる必要があります。

人間は、ウソをついたり、ごまかしたり、すっとぼけたり、言い訳を考える習性を有する動物です。

もし、
「私はウソをついたことがない」
「ごまかしたことはない」
「すっとぼけたりしたことは生まれたこの方一度たりともない」
「人生一度も言い訳をしたことはない」
という方がいたとしたら、その方は、人間ではないか(人工知能か何かが脳に入っているか)、あるいは病的な嘘つきのはずです。

ちなみに、アメリカのある大統領、ウィリアム・フリントン(関係者のプライバシーに配慮し、仮名とさせていただきます。以下、同じ)氏は、記者会見で、
「もう一度言います。私はあの女性、フリンスキーさん(仮名)と性的関係を持っていません。

私は誰にも嘘をついたことがありません。いまだかつて一度もありません。この申し立ては虚偽です」(西川賢『ビル・クリントン 停滞するアメリカをいかに建て直したか』中公新書より)
と、のたまったそうです。

世の中、いろいろウソはありますが、
私は誰にも嘘をついたことがありません。いまだかつて一度もありません
というのは、もっともミエミエ・スケスケ・ギンギン・ギラギラの額縁付きの、ひっどい、ウソですね。

こんなウソを堂々と言い切れる、フリントン(仮名)氏のメンタルもダイヤモンド級です。

なお、その後、フリンスキー(仮名)さんが体液の付着した
「青いドレス」
を含む物証を提出し、当該体液が、DNA鑑定の結果、フリントン氏(仮名)の提出した血液サンプルと一致したことから、フリントン(仮名)氏も観念し、ウソをついていたことと認め、謝罪しました。

脱線しましたが、人間は、ミスをし、誤解し、エラーをし、さらに、これが露見しそうになっても、ウソをついたり、ごまかしたり、すっとぼけたり、苦しい言い訳を考える習性を有する動物です。

このような現実的前提をふまえると、正しい命令を誤解したり、理解してもサボったり、サボるつもりはなくとも迷走したり、あるいは勝手な判断で暴走したりする可能性は十分あり得ます。

そのような失態を犯した挙句、自己保存のメンタリティから、
「自ら招いた結果とはいえ失敗を指摘され非難される」
という不名誉な事態の発覚を先延ばしにして有耶無耶(うやむや)にしてしまおうという、姑息で卑怯な魂胆のもと、報告連絡相談を意図的に懈怠したり、責任者や上層部が積極的に突き回さない限り報告を忌避したり、報告をするにはするが、抽象的で曖昧で
「どうとでも解釈されるような、しかも、現場は努力して頑張っている、というメッセージが入った」
無内容な報告に終始して、事実上、事態の露見を隠蔽する、ということも、実際の企業社会ではよくみられる状況です。

いずれにせよ、
「線表(せんぴょう)」
を策定し、線表に基づく達成状況の監視は必要です。

また、遅滞や懈怠に対するペナルティーを定め、これをシビアに運用することは必須です。

進捗状況すら管理せずに、丸投げしたり、ブラックボックスを作ったままの遂行体制を放置容認したり、現場からの抽象的で無内容な報告を鵜呑みにするのは、NGです。

「現場を信じて、任せる」
「(線表による達成状況の監視とペナルティーのシビアな運用などは)部下を信頼していないと思われ、却ってやる気をそぐのでそこまで細かいことはしない」
などと命令の達成状況や進捗を細かく管理することを放棄すると、撤退のタイミングすら見失い、泥沼の状況に陥り、果てしない資源喪失を招きかねません。

「正しい命令が、正しく、予定どおり実行され、成果が想定どおり達成される」
ということ事態が稀有である、という保守的な想定のもと、慎重に、臆病に、命令達成状況を細かく把握し、確認することが、プロジェクト・マネジメントにおいて必須であり、また、そのために必要な人員やシステムも、きちんと整備構築しておくべきです。

初出:『筆鋒鋭利』No.124、「ポリスマガジン」誌、2017年12月号(2017年12月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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