01716_🔰企業法務ベーシック🔰/企業法務超入門(企業法務ビギナー・ビジネスマン向けリテラシー)27_有限責任と無限責任

経済社会においては、
「株式会社」
という存在は欠かせないものであり、皆さんも日常よく耳にされているかと思います。

他方、株式会社という法律上の仕組みは意外と難しく、大学法学部生は専門課程において、
「会社法」
という科目として1年かけて勉強するのですが、それだけ勉強してもなお定期試験で悲惨な成績しか取れない学生が結構多い、という、難解にして厄介な代物です。

ここでは、この
「株式会社」
という法的制度について、できる限りわかりやすく解説してみたいと思います。

企業不祥事が発生すると、マスコミ等はこぞって、
「企業はきっちり責任を自覚せよ」
「経営者は責任を免れない」
「株主責任を果たすべき」
などと報道します。

しかしながら、結論から申せば、株式会社には、法理論上、責任者不在の組織となっています。

といいますか、株式会社制度自体が、そもそも
「誰も責任を取ることなく、好き勝手やりたい放題して、金もうけができ、もうかったら分け前がもらえるオイシイ仕組み」
として誕生したものなのです。

すなわち、株式会社制度の本質上、
「関係者は事業がヤバくなったら、とっとと逃げ出して、ケツをまくれる」ように
設計されているのです。

株式会社制度に関して、立派な学者の先生が書いた理論的な説明された文章を探してみます。

すると、こんなことが書いてあります。

曰く、

株式会社とは、社会に散在する大衆資本を結集し、大規模経営をなすことを目的とするものである。かかる目的を達成するためには、多数の者が容易に出資し参加できる体制が必要である。そこで会社法は、株式制度(104条以下)を採用し、出資口を小さくできるようにした。また、出資者の責任を間接有限責任(104条)とし、社員は、債権者と直接対峙せず、また出資の限度でしか責任を負わないようにした
と。

これじゃ、まるで外国語ですね。

受験偏差値65以上の人間でもこんな
「外国語」
を理解できるのはごくわずかでしょうし、一般の方にはまったく理解できないと思います。

そこで、一般の方でもわかるように“翻訳”して解説します。

日本語のセンスに相当難のある学者の先生がこの文章でいいたかったことは、
デカい商売やるのには、少数の慎重な金持ちをナンパして口説くより、山っ気のある貧乏人の小銭をたくさんかき集めた方が元手が集めやすい。とはいえ、小口の出資しかしない貧乏人に、会社がつぶれた場合の負債まで負わせると、誰もカネを出さない。だから、『会社がぶっつぶれても、出資した連中は出資分をスるだけで、一切責任を負わない』という仕組みにしてやるようにした。これが株式会社だ
ということなのです。

「株主は有限責任を負う」
なんてご大層に書いてありますが、要するに、
法律でいう「有限責任」とは、
会社が無茶なことをして世間様に迷惑をかけても事業オーナーが知らんふりできる、
という意味であり、
社会的には「無責任」という意味と同義
です。

ついでにいいますと、
「有限会社」や「有限責任組合」とは、
われわれの常識でわかる言い方をすれば、
「無責任会社」「無責任組合」という意味
です。

さらに余計な話をしますと、
「ホニャララ有限監査法人」とは、
「監査法人がどんなにありえない不祥事を起こしても、出資した社員の一部は合法的に責任逃れできる法人」の意味
であると理解されます。

東日本大震災後の原発事故で、日本に甚大な被害をもたらした東京電力も
「株式会社」
という仕組を使って商売をしています。

したがって、あれだけの厄災をばらまいておきながら、東京電力の企業オーナーである株主は一切責任を取らされません。

実際、震災前の東京電力は、超のつく優良企業で、株主は毎年結構な配当を享受しておりましたが、大事故を起こして社会に迷惑をかけても、株主に対して
「損害賠償を負担しろ」
とか、
「過年度にたんまり受け取った配当を返金して、迷惑や損害を被らせた方々への賠償として支払え」
などといわれることは一切、絶対ありません。

だからこそ、小銭しか持っていない一般大衆が、電力事業という大きなビジネスに参加できるわけであり、
「“有限責任制度”という偉大な社会制度の発明が、現在の産業社会を創出した」
といわれる所以なのです。

ちなみに、私個人の意見としては、
「原子力発電事業は、有限責任のメリットを享受できない企業体で運営すべき」
と考えています。

例えば、合名会社という企業制度ですが、株式会社と違い、無限責任制度を採用しています。

すなわち、出資したオーナー全員が無限連帯責任を負いますので、こういう組織に原子力発電事業を担わせるのも一計ではないでしょうか。

適当でいい加減なことをやって事故を起こすのは、
「どうせ他人事」
という意識があるからであって、
「失敗したら、関係者全員、手をつないで地獄行き」
という前提であれば、真剣に仕事をしてくれるはずです。

原子力事業の参加資格を合名会社に限定し、東京電力の課長以上の職員全員が合名会社の出資者となる合名会社が事業を運営すれば、安全性が相当向上するのではないでしょうか。

東京電力の課長ともなると年収は1000万円を超えるでしょうし、不景気の時代ですから、無限責任というリスクがあっても、残留を希望する部課長や役員はたくさん出てくると思われますので、案外、うまく機能するかもしれません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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