昭和や平成初期の株主総会においては、声が大きく、目つきが鋭く、柄もお品もおよろしくなく、役員の愛人問題やら不倫問題やら社費の私的流用やら交際費名目での豪遊やら、といった、
「週刊誌ネタとしては面白いが、株主総会で取り上げるべき話としては、あまりに関係性が薄い」ネタ
を使って、総会の議事運営を撹(かく)乱することを生業とする特殊な株主(いわゆる総会屋)をいかに排除して、ヘルシーでエレガントでフェアな株主総会を目指すか、という方法論が議論されてきました。
しかしながら、暴対法施行に伴い、
「特殊な株主(いわゆる総会屋)」
は一掃され、もはや絶滅危惧種となっています。
他方、最近、企業経営陣にとって非常に煙たがられる別のタイプの株主が、株主総会において積極的な発言をして、企業の希望どおり、シャンシャンとは終わらせてくれない事例が出てくるようになりました。
発言権を有する株主として認識される一定割合(大量保有報告書提出が求められる5%以上)の株式を取得し、この発言権を裏付けに、企業経営者に対して増配や自社株買いなどの株主還元の要求や、株主総会における議決権行使などを積極的に行う、
株式投資専門集団
であり、
物言う株主とかアクティビストファンドとか呼ばれる方々
です。
そして、アクティビストファンドが株主として乗り込んできた企業は、どこもその対策に頭を痛めています。
「昭和や平成初期に跳梁跋扈した特殊な株主(いわゆる総会屋)に対する総会対策」
は、
「一見して、法的保護に値しない、総会運営の撹乱者」
に対してはある程度効用を発揮します。
しかし、アクティビストファンド株主のような、特殊でない、バイオレントではない、
「インテリジェントかつエレガントかつジェントル」な株主、
すなわち
「自らが投資する会社の方向性に興味・関心を有する一般投資家や、経営者の経営責任を追及すべく財務諸表を読み込み、徹底した理論武装をしたプロの投資会社等のプレーヤー」
による的を射た質問に対しては、古典的な総会対策はまったく無力です。
逆に、
「図星を突いた鋭い質問」
に対して、
「一見して、法的保護に値しない、総会運営の撹乱者」への対抗手段
を使うと、会社側が違法行為者と成り果て、後日の総会決議取消訴訟でボロ負けし、不可逆的に体面を喪失しかねません。
現代の株主総会は、シャンシャン総会でもなく、また、総会屋跳梁跋扈する総会でもなく、
「投資家との対話重視」が理想
とされます。
では、例えば、
「PBR(株価純資産倍率)が0.5(=解散価値1万円の会社の株が市場価格5000円で買える状態)」
の会社に投資して筆頭株主に躍り出たファンド株主が、
「この会社は、現金資産も豊富だから、会社を解散して現金化して、株主に配当した方が、株式価値より多くのお金を手にできる。これが会社のオーナーたる株主の意向である。速やかに解散せよ」
という発言をした場合、会社側としては、どのような応答が可能でしょうか。
これは、
「会社は誰のものか」
と呼ばれる企業統治の根本理念に根ざす問題です。
江戸時代の商家に例えれば、
株主は「旦那さん(オーナー)」
であり、
役員は旦那さんに傭ってもらっている「番頭さん」
に過ぎません。
旦那さんの意向を無視して、番頭さんが勝手な経営をすることは許されません。
これとパラレルに考えれば、筆頭株主のファンドが、
「会社を解散した方がトクだから、ただちに解散せよ」
という指示に対して、株主に雇われ、株主のために働くべき義務を負う役員側としてはグーの音も出ず従うほかないように思われます。
ファンド株主の主張の前提理念や前提価値観を集約・整理すると、
「会社は『シェアホルダーズ(株主)』のものであり」
「『シェアホルダーズ』は短期的利益追求を望んでおり」
「会社は、短期的利益追求という『シェアホルダーズ』の要請に応えるべきだ」
という趣旨のものとして整理されます。
他方、会社としては、これに対抗するロジックとして、
「会社はトレーダーだけのものではない」
「会社は、短期的利益を追求する株主だけのものではなく、株主を含む多数のステークホルダーズ(利害関係者)のために存在するものである」
「短期的利益追求もさることながら、ゴーイングコンサーンを最大の存続目的とする」
「したがって、短期的利益追求のみを指向したファンドの主張は、前提において会社が目指すべき方向性と異なるので賛成できない」
というものが考えられます。
要するに、一定量の種籾(たねもみ)を前にして、
「腹が空いたから、後先考えず、とっとと飯炊いて食っちまおうぜ」
という考え方と、
「今食べたらそれで終わりだが、食べずに我慢して、きちんと撒(ま)いて収穫すると、より豊かな未来を描けるので、ここはそんな、欲にかられて、短絡的な決断するのはよそう」
という考え方に対立した、という類の価値対立の議論です。
会社経営陣としては、前述のファンドの主張に対しては、
「当社は、株主様に加え、当社にまつわるさまざまな利害関係者の皆様にとって公器としての責任を果たすべく、ゴーイングコンサーンを最重要価値として運営しており、この考え方に立って、安定した配当を従来からの方針としております。短期的な高額配当や、あまりに性急な株主還元策は、一過性なものになりかねず、財務体質の悪化を招き、特に、長期かつ安定的な姿勢でご支援いただいている株主様やその他の利害関係者の利益を損ねることになりかねませんので、ご意見としては拝聴しますが、採用いたしかねます」
といった形で応答することが想定されます。
「会社は誰のものか」
という議論は、正解がなく、今後も会社法の根幹に関係する議論として、また、様々な株主総会における熾烈な対立を招来する議論として、活発に論じられていくと思います。
このように、会社法は、数学の方程式のように答えが1つで、分かりきった答えや定石を覚えておけば大丈夫、というものではなく、企業活動や市場経済のトレンドに併せてダイナミックに展開していきます。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所