01739_企業(法人)会社が作った著作物の著作権は従業員個人のものとなるのか?企業(法人)のものにすることができるか?

著作者となるのは、実際に創作活動を行った者ですので、自然人たる個人が原則です。

しかし、企業(法人)とその従業員との関係では、

・著作物の創作にかかわるリスクは雇用主である企業(法人)が負担していることや、
・著作物についての社会的評価や信頼を得て、その内容について責任を有するのは従業員個人というよりも企業(法人)であると考えられること、
・また、実質的・現実的な状況を前提とすると、発明や特許は日常頻繁に生じませんが、著作については、1日、1時間単位で、膨大な数生まれます。例えば、新聞や雑誌、ネットでの情報発信など、これら著作物は、ものすごい勢いでその数を増殖させます。企業が組織として、創作するこれら著作物について、逐一、
「従業員個人に原始的に著作権が発生し、これが何らかの法的なフィクション(こじつけ)を通じて、企業(法人)に承継される」
などという面倒で煩瑣(でかつ嘘くさい)なロジックに依拠しなけらばならない、とすると、歪な感じが拭えませんし、トラブルの萌芽も感得されるところであり、経済社会が混乱しそうです。そういうこともあって、経済社会の現実としても、企業(法人)が企業活動として創作した著作は、法人著作として認める強い必然性があること、

から、一定の要件の下に企業(法人)が、従業員の創作した著作物を、オートマチックかつデフォルト設定として、法人著作とする制度が法律で定められています。

著作権法15条1項は、
1 「法人その他使用人の発意」に基づいて、
従業員が
2 「職務上作成する著作物」で、
3 「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」の著作者を、
4 「その作成のときにおける契約、就業規則その他に別段の定めがない限り」、
「法人等とする。」
として各要件を満たす場合に著作権の原則的な帰属主体を法人等と定めています。

1の要件については、著作物の創作についての意思決定が、直接的又は間接的に使用者の判断に係っていることが必要です。

とはいっても、明確かつ具体的な職務命令までは不要です。
例えば、従業員が自分で企画を出して上司の了解を得て作成活動を行う場合でも法人等の発意に基づくものと解されています。

2の要件については、勤務時間の内外は問題ではなく、従業員の職務として作成されたか、すなわち、著作物が従業員の義務の遂行による成果として位置づけられるかが問題となります。
小椋佳、というシンガー・ソング・ライターがいます。
プロの歌手で作曲家ですが、この方、実は、東大法学部卒の、バリバリの銀行員であり、銀行と作曲家・歌手の二足のわらじを履いていました(昨今の副業トレンドのパイオニアです)。歌手デビューは1971年ですが、これと並行して、日本勧業銀行(後の第一勧業銀行、現:みずほ銀行)入行し、証券部証券企画次長、浜松支店長、本店財務サービス部長などを歴任(この間にノースウェスタン大学留学や、メリルリンチ証券派遣など、米国滞在も経験するエリート銀行員)。
この場合、小椋佳さんが作詞作曲した楽曲の著作権は、みずほ銀行が著作権をもつか、と言われると、まあ、無理でしょうね。「著作物が従業員の義務の遂行による成果として位置づけられる」とは言えないでしょうから。

3の要件については、プログラムの著作物に関しては、不要とされています(著作権法15条2項)。

4の要件の例としては、就業規則・労働協約・内規などがあります。

最後に、
「従業員」
であることが前提となっていますので、取引先や、派遣社員や、インターンについては、問題が生じてきます。

こういうグレーな状況をどうやって乗り越えるか?

簡単です。

上書きしちゃえばいいんです。

取引先や協力会社や派遣社員やインターンが作ったものも企業(法人)の著作としたいなら、
「私が制作した著作物について生じるべき著作権は、対価の支払いを要することなく、御社にのみ排他的帰属することとし、これを争いません」
などといった確認書なり念書なりを徴求しておいて、状況を自己に有利に上書きしておけば、問題は一瞬で解決します。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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