例えば、コンビニエンスストアに行っておにぎり1個を100円で買いにいく、としましょう。
その際、
「売主を甲、買主を乙とし、売主は、買主に対して、本日、別紙明細・仕様にかかるおにぎり1個を100円にて売渡す。・・・」
という契約書を持っていき、
「この契約書に逐一署名押印しないと、まともな契約処理とはいえず、コンプライアンス的に問題であるので、おにぎり売買取引はすべきでないし、できない」
などと言い出した人間がいたとしましょう。
この人間の言い方はまったく間違っていませんが、こんなことを逐一やっていたら、それこそ日本経済がマヒしてしまいます。
100円のおにぎりの例は少し極端ですが、1,000万円の取引であろうが、1億円の取引であろうが、やはり、
「契約書」
などといったご大層な紙切れなどなくとも
「契約」
は立派に成立するのです。
その意味では、
「契約書(約束の証拠)」
と
「契約(約束)」
は別物です。
「契約書(約束の証拠)」
がなくても
「契約(約束)」
が成立することはあります。
「契約(約束)」
をしていても、
「契約書(約束の証拠)」
を作らず、
「口約束」
で済ますこともありますが、この
「口約束」
であっても、内容が明確で具体的であれば、法的に有効です(諾成契約といいます) 。
「契約書がないから、この契約は法的には無効だよ!」
とかエラそうに言っているオッサンがいれば、そいつは、信じられないくらいのアホの知ったかぶりです(社会に出れば、こういうアホがウジャウジャいます)。
そういうイタいオッサンにあったら、
「日本の民法は意思主義を採用しているから、諾成契約でも有効だよ。アホのくせに、エラそうに知ったかぶりしていないで、ちゃんと民法勉強した方がいいよ」
とか言ってやってください。
「契約(約束)」
がなくとも、
「契約書(約束の証拠)」
だけが作成されることもあります。
脱税したり、何かワルダクミをしたり、怒られるのをやり過ごすためにつまんないウソをデッチ上げたり、 大人も、困ったら、いくらでもズルやイケナイことをするもんなんです。
当然、こんなウソっこの
「契約書(約束の証拠)」
は無効です。
「契約(約束)」
そのものがないんですから。
ウソであり、なんちゃってなんですから、こんなもん、法的には無効です。
ただ、そのことを知らずに、ウソっこの
「契約書(約束の証拠)」
を信じて迷惑や損害を被った他人が出てきたら、どうするか、という点については、大学の民法で勉強します。
いずれにせよ、
「契約書(約束の証拠)」
がなくても
「契約(約束)」
は立派に成立します。
実際、テレビ番組やテレビコマーシャル制作委託取引の現場などは、紙切れ1枚なく、数千万円単位の取引が日常的に行われているようです(2009年2月25日に総務省から公表された「放送コンテンツの製作取引適性化に関するガイドライン」等をみますと、『どんなに巨額の取引でも口約束で済ませる』というテレビ業界におけるある種、いい加減ともいえる慣行を伺わせる記述がみられます)。
あと、証券取引や為替取引や商品先物取引等というのも、基本的に口頭だけで何千万円単位、何億円単位の取引が行われます。
目まぐるしく激変する株式市場で信用で(借金して)相場張っている投資家が、
「後場に入ったら、すぐに手持ちの買いポジション解消して。早く。早く。早く~~~~」
なんて現場で、悠長に
「甲及び乙は、本日、・・・・」
という契約書を作成して調印していたら、それこそ取引機会を逸したり、逃げ場を失くして、大損することになりますからね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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