1、ビジネスパースン(法律の素人)によるビジネスネゴシエーション(取引の延長過程での話し合い)
トラブったとき(約束に違反しちゃったとき、約束を破られたとき)、どのような展開になるのでしょうか?
取引や契約をしたのはいいが、買った商品や製品の話であれ、お願いしたサービスの話であれ、支払う約束のお金の話であれ、
量が違う、
品質が違う、
スペックが違う、
すぐ壊れた、
金額が違う、
話が違う、
約束が違う、
解釈が違う、
細かいところまで詰めていなかった、
契約書に書いていない事態になった、
想定外が起きた
ということは結構あります。
最初は、顧問弁護士だの、社内弁護士だの、法務部とか登場することなく、取引担当者同士でなんとか話し合いでまとまらないか、努力をします。
「リーガルマター(法務案件)」ではなく「ビジネスマター(ビジネス案件)」として、
「リーガルパースン(法務関係者)」ではなく「ビジネスパースン(ビジネス関係者)」の間で、
「リーガルネゴシエーション(法的な交渉)」ではなく「ビジネスネゴシエーション(ビジネス交渉)」として、
話し合いをします。
この段階では、契約がどうだの、法律がどうだの、権利がどうだの、義務がどうだのといった堅っ苦しい法律の話は抜きで、お互い譲り合って、折れ合って、妥協し合って、
「痛み分けでなんとかならないか」
と話し合いをします。
もちろん、このプロセスは絶対踏まなければならないものではなく、とっとと、次の段階や、裁判を起こしても差し支えありません。
2、代表者・責任者名義の手紙が飛び交う、険悪な話し合い
ビジネスネゴシエーションのレベルの話し合いで何とかなるのであればいいのですが、
「発生した損害が大きすぎて、一部たりとも負担できない」
「相手が圧倒的に悪く、こちらに非がないので、一切妥協できない」
「安易な妥協や譲歩をするにも、株主に対して説明ができないし、下手すりゃ株主から株主総会で突き上げられるし、株主代表訴訟で訴えられる」
「相手の主張を一部でも認めたら、こっちの経営がやばくなる」
という話だと、妥協点は見つけられない、ということになり、場合、次の段階に進みます。
次の段階は、会社名義(代理人を委任しない形)での、険悪な交渉です。
会社の責任者(代表取締役とか、あるいは事業責任者で相応の権限者)名義で、わりと厳し目で、陰険な内容の手紙のやりとりが始まります。
ここでは、法務部や社内弁護士、さらには顧問弁護士等が登場して、契約や法律をみながら、法律上の権利や義務や立場や責任といったものを明確にしながら、ケンカ腰の対話が続けられます。
このプロセスも絶対踏まなければならないものではなく、とっとと、次の段階や、裁判を起こしても差し支えありません。
3、代理人弁護士(プロの弁護士)同士の交渉
それでも、うまくいかないときには、代理人弁護士を通じた交渉に移ります。
弁護士を付けて、
「内容証明郵便(業界では、内証〔ないしょう〕といったりします)」
という特殊な形式の郵便の手紙通知書を相手方に送付し、相手方も弁護士を付けてこれに応答し、交渉が始まります。
もちろん、
このプロセスも絶対踏まなければならないものではなく、とっとと、次の段階や、裁判を起こしても差し支えありません。
代理人がついた場合、代理人を飛び越して、直接相手方と話そうとしても、相手方の代理人の立場や権利(弁護権)を侵害することになるので、代理人を窓口として交渉することになります。
弁護士同士の交渉ですが、電話やズームでやり取りする場合、直接会って話し合う場合、いずれも、腹の探り合いをすることが多いです。
直接会って話し合う場合、よく使われる交渉舞台が、弁護士会館です。
弁護士会館には、話が外に漏れない密室の会議室がたくさんあって、弁護士であれば、無料で使えます。
呼びつけたり、呼びつけられたり、というのもカドが立ちますので、お互い弁護士会館に出向いて、というのが一般的な手法です。
4、裁判外交渉の結末
裁判外交渉で話し合いがついた場合、仕事の仕上がりはどのようなものになるでしょうか?
これは、和解契約書とか示談書とかいう名前の「契約書」を取り交わして、紛争が解決したことになります。
もちろん、和解契約書取り交わしの際に、問題となっていたお金や商品等の引き渡しを行ったりすることもあります。
ここでは、マフィアの銃や麻薬の取引のように、信頼出来ないもの同士が取引場所にやってきて、すべてその場でブツを交換して、一回ですべて終わらせるような取引になります。
それと、紛争解決をするわけですから、あとからケンカの蒸し返しになったら意味がありません。
その意味で、「清算条項」というものを和解契約書に入れておくことになります。
「AとBは、本和解契約書に定めるほか、甲と乙の間に何らの債権債務がないことを相互に確認する」という一文です。
素人が和解を取り仕切ると、これを忘れたりして、愚かな紛争の蒸し返し、ケンカの際限なきやり直しをする場合がありますので、これだけはよく注意する必要があります。
5、裁判外交渉の特徴
裁判外交渉においては、注意点があります。
裁判外交渉と裁判の違いは、
1)相手方の対応による解決が長引く可能性があること
2)不調の場合時間が無駄になること
です。
すなわち、裁判になると、だいたい1カ月単位で期日(裁判所に当事者が出頭し、判決に向けた争点の整理や和解を行う手続を行う日)が入るので、あまりズルズル引き延ばしすると、その間に、しびれを切らした裁判所が争点をどんどん整理して、証人尋問までたたみかけ、判決に至る、という形で、公権力によって強権的に(といっても、かなり時間的冗長性はありますが)、不利な状況に押しやられ、最後には不利な和解を事実上強制されたり、不利な判決を食らう、形で強制終了してしまいます。
ところが、裁判外交渉ですと、引き延ばしにペナルティはありませんし、相手方にやる気がなければどんどん解決が長引きます。
また、裁判外交渉は、和解という一種の契約の締結が交渉のゴールになります。
当然ながら、和解は契約ですので、こちらがどんなにフェアな提案をしても相手方が承諾しない限り解決は不可能です。
最後の最後で、ちゃぶ台ひっくり返されてもかけた時間が戻ってきませんし、訴訟提起で最初からやり直しになります。
以上のとおり、裁判外交渉が有用なのは早期の解決の見通しが立つ場合ですので、不調の見極めを行い、解決が困難であればすぐに訴訟に移行する必要があります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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