事業責任者が法務に相談したところ
「当社の法務部から『特定の専門分野に関する法務課題は取り扱わない』と言い放たれてしまいました」
という事例がある企業で発生し、この事例についてコメントを求められたことがあります。
この状況を分析して、改めて、法務部のあり方を考え直してみましょう。
企業の法務部は、企業活動において生じるすべての法務課題、安全保障課題について、最終責任を負担して、対処すべきです。
この前提が機能していないとなると、
「法務部そのものが役立たずであり、それ自体が企業において大きなリスクになっている」
といえます。
「企業の法務部は、企業活動において生じるすべての法務課題、安全保障課題について、最終責任を負担して、対処すべき」
という前提は、何も、
「これらの課題を、すべて内製化して、企業法務部として、固有の内部リソースのみで対処すべき」
という過酷なことが要求されているわけではありません。
すなわち、法務部の所掌範囲は、一般的知見に基づく一次対処(いわば、町医者、ホームドクター)です。
これで対処できない場合は、顧問弁護士(顧問弁護士でも対処できない場合は他に対処能力ある弁護士の調査・発見・依頼)への外注(医療の世界にたとえると、特定機能病院への紹介と受診へのファシリテーション)によって対処することが許容されています。
法務部が、「特定の専門的法務課題については取り扱『わ』ない状況である」、などと言い放つ場合、それは、
当該法務部では、取り扱『わ』ないのではなく、
当該法務部では、取り扱『え』ない状況が存在する、ということであり、
「顧問弁護士(顧問弁護士でも対処出来ない場合は他に対処能力ある弁護士の調査・発見・依頼)への外注(特定機能病院への紹介と受診へのファシリテーション)」
という機能が喪失している状況が発生していることを示唆しています。
すなわち、法務部としては、特定専門的法務課題について、
・自らの知見に属さない(知的資源が不足している)
・さらに、顧問弁護士でも対処できない
・「対処能力ある弁護士の調査・発見・依頼」という対処課題について、パイプライン(外注先への接点構築のための関係性)も欠如しており、さらには新たなパイプラインを構築するような意思や能力や努力資源を欠如している
ということです。
このような「能力欠陥や対処スキルや努力資源」が顕著に存在する状況において、自らを顧みることなく、あたかも「自己の選択と判断によって、当該状況を選好している」かのような言い様は、非常に、病理的で悪質です。
すなわち、当該法務部は、
「法務部では取り扱『え』ずギブアップしている」
ところ、自己保存や自尊感情のため、上記事実を直視することができず、
「法務部では取り扱わない」
となどという狂った弁解をしているだけと推察できます。
では、どうすればいいのか。
経営トップとして、法務体制の病理性を早急に矯正する必要があります。
法務を含む間接部門というのは、いわば
「社内のサービス部門」
です。
法務部という社内部署は、
「原課・原局というお客様のニーズに応えて、神様であるお客様に応えてナンボ」
のセクションです。
「『法務課題処理や安全保障に対処するための社内のサービス部門』が全く機能していない(さらに言うと、役割を理解しておらず、運営哲学レベルで病理的で狂っている)」
ということは、
国家レベルの話で例えると「警察や自衛隊がストライキを起こしているようなもの」
であり、緊急事態です。
経営トップとしては、法務部の心得違いの矯正を含めて、早急な改善をすべきです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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