01945_雇用保険被保険者離職票修正におけるトラブルの対処行動

雇用保険被保険者離職票は、離職者における失業保険算定上の基礎資料となります。

従業員が退職意思表示を示し、雇用保険被保険者離職票の交付を会社にもとめてきた場合、会社は速やかに交付の手続きをしなくてはなりません(ハローワークが発行しますが、会社を通じてその手続きをすることとなります)。

さて、ある会社において、関連会社に出向していた従業員が退職の意思を表明し、オーナー経営者は合意しました。

総務担当者は、退職の手続きをすすめました。

雇用保険被保険者離職票とともに、給与関係書類として、(当該従業員が関連会社に出向していたことから)賃金台帳ではなく給与台帳をハローワークに送り、ハローワークでは、送られてきた給与台帳をもとに雇用保険被保険者離職票の修正を行いました。

その結果、書類上、当該退職者の給与は、オーナー経営者の認識より高額となりました。

この過程で、当該従業員は、所定労働時間および時間外手当について、会社側と認識の齟齬があったことを知り、その後、当該従業員は、会社に対して、
「未払いの賃金」
があると、請求してきました。

労働法務においては、このように、日常の業務の一環が、ある日突然、トラブルとなることが少なくありません。

この件については、誰が、どういう認識と存念で行ったかはさておき、
「会社の認識と異なる認識内容がミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されて公務所に提出された」
という状況であり、そのこと自体が事件です。

事件を
「事件」
として認識したのであれば、
「通常、事件被害に遭った合理的人間」
として対処すべき一連の行動、すなわち、犯人探しや、犯人に対する責任追及や、是正措置といった対処行動をしておくべきことになります。

もちろん、対処行動をせずに放置することも可能ですが、その場合、
放置=黙認=追認=「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化されて公務所に提出された認識内容と会社の認識内容には齟齬がなかった」
ということを、会社が自認したものとして扱われます。

裁判となった場合、当然、当該従業員も、裁判所も、そのような言い方で、会社を責め立ててくるでしょう。

会社が、
「『通常、事件被害に遭った合理的人間』として対処すべき一連の行動、すなわち、犯人探しや、犯人に対する責任追及や、是正措置といった対処行動」
をプロジェクトとして遂行するには、まずは、対処行動のための動員資源(知的資源・事務資源)が必要になります。

本件の場合、対処行動上の相手方がハローワーク(公務所という強大で無謬性を絶対視する存在)となるので、対処方針と行動計画を策定し、着手・遂行する一連の手続きには、相当の時間がかかります。

腹立たしいことこの上ないでしょうが、難事となることを想定しなければならず、相応な予算が必要となり、かつ、予算がかかっても満足な成果が得られない危険もあり得ます。

まずは、会社として、
1 立件するのか(事件認識するか=対処行動を取る覚悟を決めるか=予算動員の覚悟を決めるか)、
2 放置容認するのか(予算を懸念して捨て置くか)
3 立件するとして、どのような体制(予算規律)で対処するのか
1)弁護士に丸投げするのか
2)一部を弁護士に外注するに留めるのか
3)弁護士の助言のみで自力対処するのか
4)すべてを内製化し、自力対処するのか
という論点で、オーナー経営者が、速やかに決定することが必要となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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