01957_受任を継続する上で必須_方針確認の合意

弁護士は、受任継続するにあたっては、相談者と、
・戦局の観察や評価
・展開予測
・今後の態度決定や方法論選択
を議論し、方針を確認し、その後、方針確認書を相談者に送付することになります。

ある相談者が当該確認書を拒絶する、ということが起こりました。

その理由は、大要、
「当方はクライアントなのに、このような確認によって、言いたいことが言えなくなるのはおかしい」
というものでした。

実は、この状況は、 弁護士が受任継続をするか否か、にかかわるほどの非常に重大な事態です。

なぜ
「非常に重大な事態 」
と呼ぶにいたったかを、状況を整理しながら説明していきましょう。

1 貴我の立場ないし関係

上記理由を敷衍すると、
「こっちは客なんだから、客が、サービス提供者の言うことを聞かなければならない、というのはおかしい」
という”本質をもつメッセージ”であろうと、認識されます。

もし、このような認識であるならば、それは弁護士の認識とは重大な齟齬があります。

すなわち、弁護士とクライアントの関係は、単純かつ形式的に、カネを払うユーザーと、カネをもらうサプライヤー(サービスプロバイダ)、というドライなモデルとは捉えていません。

弁護士としても結果の良否と連動する報酬のリスクを負っており、また、
「結果のベネフィットやリスクを共有することで、より効果的に、最善の結果を出す」
という理念に基づき、(単なるサービスプロバイダではなく)パートナーシップという仕組構築が相互にとって有益であろう、という前提で、”パートナー”と捉えています。

もし、相談者が、
「カネを払うユーザーと、カネをもらうサプライヤー(サービスプロバイダ)、というドライなモデル」
によるサービスに同意し、今後、提供される全てのサービスを時間制単価を積み上げていく形で、費用(相当高額なものとなると推定される)を支払う、というのであれば、弁護士としては、
「結果の良否と連動する報酬のリスク」
を負担することはなく、
「こっちは客なんだから、黙って、客の言うことを聞け」
と言われたら、唯々諾々として、
「サプライヤー(サービスプロバイダ)」
として、これに従うことになります。

2 状況に関しての認識や評価の一致、これに基づく対処方針の一致が必須であること

相談者の考え方や方法論に従う限り、
「こっちは客なんだから、黙って、客の言うことを聞け」
というあり方は、論理的前提を失っています。

パートナー間で必要なのは、状況に関しての認識や評価の一致であり、これに基づく対処方針の一致です。

そして、これに齟齬があれば、徹底して議論すべきであり、議論しても一致を見なかったり、一方が議論を忌避し、選択を遷延し、選択の責任から逃れようという立場を固辞するのであれば、パートナーシップを解消しなければなりません。

3 議論の不一致の場合の措置

弁護士は、見解ないし方向性不一致の場合には、規制上、ただちに、関係解消すべきことを義務付けられています。

すなわち、
「弁護士は受任した事件について依頼者との間に信頼関係が失われ かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明し、辞任その他の事案に応じた適 切な措置をとらなければならない(弁護士職務基本規程43条、信頼関係の喪失)」
に基づき、辞任をすることになります。

4 相談者の選択

弁護士としては、もともと、こちらからお願いして事件をさせてもらっている立場ではなく、不利や困難はかなり明確に伝えた上で、それでも頼むと、懇願され、事件対処している立場です。

しかも、関係性としては、
「カネを払うユーザーと、カネをもらうサプライヤー(サービスプロバイダ)、というドライなモデルで、提供される全てのサービスを時間制単価を積み上げていく形で、費用(相当高額なものとなると推定される)をお支払いいただく」
サービスではなく、
「結果のベネフィットやリスクを共有することで、より効果的に、最善の結果を出す」
という理念に基づき、
「結果の良否と連動する報酬のリスク」
をともに負わせ、(単なるサービスプロバイダではなく)パートナーとして、共同してリスクのあるプロジェクトに取り組む形での関係性においてです。

そして、事件については、弁護士は、相談者に、困難な想定はすべて事前に伝え、これら障害や困難が次々と現実になる状況の中、善処に善処を重ね、構築ないし到達した状況において、今後、薄氷を踏むような後半戦に望むに際して、戦略方針を確認したところ、相談者は、合理的な異議を出すわけでもなく、単に、手枷足枷をはめられたくない、ちゃぶ台返しができなくなる、客だから、カネを払っているのはこちらだから、と推測される理由と態度で、方針確認を拒絶した、という顛末です。

このような状況においては、弁護士としては、弁護士職務基本規程の指示するところに従い、しかるべき措置を取らざるを得ない状況にまできている、ということなのです。

最後に、相談者における選択としては、

選択肢1 
方針確認から逃げず、遷延せず、きちんと確認する

選択肢2
タイムチャージ方式に転換する
(「カネを払うユーザーと、カネをもらうサプライヤー(サービスプロバイダ)、というドライなモデルで、提供される全てのサービスを時間制単価を積み上げていく形で、費用(相当高額なものとなると推定される)を支払う」サービスに転換する)
(この場合、弁護士としては、「客だから、カネを払っているのはこちらだから」と言われれば、サプライヤーとして唯唯諾諾として従う。経験上、ロクな結果にはならず、しかも、相談者側が全負担することになる)

選択肢3
別の弁護士を探す
(何でも言うことを聞いてくれるような弁護士を探し、その弁護士に一切を引き継ぐ。当弁護士は、弁護士職務基本規程にしたがって辞任する)

のいずれか、ということになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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