弁済供託制度は、
「支払いたいが、相手が受け取ってくれない」
という課題解決のための制度であり、
「供託を以て、支払い完了」
というフィクションを、供託者の便宜で実施するものです。
我々弁護士が供託手続きを受任するにあたっては、
「供託した場合、取戻しはしない前提とする」
という事前確認をクライアントに行います。
無論、制度としては、取戻し手続という仕組みは存在しますし、もし、相手方が供託払戻を受けていなければ、理論上は可能です。
しかし、たとえば刑事事件において、示談金という性質で供託手続きを行う場合、示談事実が情状の一要素として考慮される等の事情のあるなか、
“判決前に供託を行い、判決後に供託を取戻す”
という行為は、
「裁判で情状を芳しくするためのポーズとして供託したが、判決をもらったら、用は済んだので、取り戻す」
ということと同義と捉えられかねず、大きな問題をはらみます。
特に、我々弁護士は、弁護士職務基本規程という倫理を遵守する立場にあるため、このような行為に加担した場合、我々自身の行為が非難されかねません。
まとめると、供託においては、取戻しという制度自体は存在するし、もし、払戻がなされていなければ理論上は可能ではあるが、
1 以上のような刑事司法手続の公正を脅かす反倫理性、
2 これを予知して受任に際して取戻しを前提としないことをクライアントに確認する、
という点から、弁護士は、“供託金の取戻し”には協力はできない、ということになります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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