01986_企業法務ケーススタディ(No.0373):紹介された“非常に儲かる投資商品”ついて気をつけることは?

【企業法務でありがちなケース・情景】

非常に儲かる投資商品を紹介されました。

外資系の証券会社の案内で、一口が結構な金額するので、特定のお金持ちにしか紹介しないものだそうです。

仕組みは複雑でよくわからないのですが、しっかりとした会社のようですし、担当者の方も、大手証券会社ご出資の方で、いい加減な話ではなさそうです。

専門外かもしれませんが、なにか、助言というか、気をつけるべき点があれば、教えて下さい。

【畑中鐵丸弁護士の助言・アドバイス・御指南】

まず、この種の案件評価も、ビジネス弁護士や企業法務弁護士の大きな役割です。

したがって、専門外ということはありません。

実際、顧問弁護士の立場で、経営者の知恵袋として、投資案件の評価・助言をすることがあります。

参考になると思われますので、よく似た事例を紹介します。

顧問先の経営者が、知り合いの経営者から紹介された、
「投資のプロ」
と称する、極めて高度な投資理論を使った、安全で、儲かる投資案件を持ち込まれ、その評価・助言を求めて、当事務所で面談しました。

自称「投資のプロ」
は、高そうなスーツに、高いネクタイをぶら下げて、理解したがたい、難解な理屈を並べ立てて、自分が提案する投資案件がいかに儲かるか、どれほどの投資家がこぞって投資を望んでいるか、を滔々と述べ立てます。

私は、コメントを求められ、
「私にはわかりません。理解できません」
と返答しました。

自称「投資のプロ」
は、
「弁護士さんには難しいでしょうね。新しい投資商品ですから」
などとやや小馬鹿にしたような目線で返し、
「じゃあ、進めてよろしいでしょうか?」
と畳み掛けます。

私は、
「いや、やめておいた方がいいでしょう」
と答えました。

場が凍りつきます。

私は続けます。

「先程から、いろいろ小難しい話をされていますが、これって、たかが金儲けの話。
儲かる話、の説明ですよね。
1万円札を5千円で買って、買った1万円札を2万円で売れる。
そんな程度の話ですよね。
別に量子力学の議論をしているわけでもないし、ホッジ予想やリーマン予想の話でもない。
単なる金儲けの話。
そんな単純な話なのに、私は全く理解できない。
『たかだか金儲けの話なのに、この私が理解できない』という点が問題なのです。
言えば嫌味になりますが、私は東京大学教養学部文科一類、通称東大文一に現役合格しております。
バカでは合格できません。
相応に国語読解能力が必要です。
したがって、私は、世の中の方々の平均以上に国語読解能力があります。
その、東大文一現役合格した私がもっている国語読解能力を総動員しても、あなたがおっしゃる、たかが金儲けの話なのに、理解できない。
別に、宇宙の成り立ちの話ではない。
ニュートリノの話でも、メッセンジャーRNAの話でも、ポアンカレ予想の話でもない。
何度もいいますが、たかが、金儲けの話です。
にもかかわらず、東大文一の国語読解能力を総動員して2回繰り返し聞いても、どういう構造と論理で儲かるのかが理解できない。
この場合の可能性は2つしかない。
1つは、『あなたが、東大卒の想像と理解を絶するほど非常に高度に知的で、話されている内容がabc予想や量子力学並に難解で、そのために、東大卒風情の私が理解できない』という状況。
あるいは、『あなたが話している内容が狂っているか、騙そうとしているから、東大卒の知性と理性を総動員しても、混乱した内容なので理解できない』という状況、のどちらかだ。
で、失礼ですが、あなたの学歴をお尋ねしてよろしいでしょうか。」
と。

そうしたところ、
自称「投資のプロ」
は、そそくさと逃亡しました。

あとでよく聞いたところ、マネロン絡みのリスクの高い取引のブリッジファイナンスで、
「1万円札の洗濯をお願いするのに5万円払って、一歩間違うと、犯罪行為に加担したとされるリスクを引き受けてもらう」
という話でした。

犯罪行為の加担としての
「お金の洗濯の資金と名義協力」
を、
「投資商品」
と言い張るため、東大卒の頭脳では、理解できなかったというオチでした。

高いネクタイ、高いスーツ、外資系、留学歴、そういう幻惑アイテムにごまかされてはいけません。

「自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、非常識であっても、怒られても、睨み返されても、合理的に考え、自分の頭で考え抜いた予測や想定する」
ということを徹底しないと、お金をなくします。

それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理にトラブルが発生し、裁判になって、負けて、全てを失った方は、異口同音にこういう言い方をします。

「自分は何も悪いことをしていない。相手を信じただけだ。常識にしたがっただけだ。なのに、なぜ、財産を失い、破滅することになるのだ」
と。

「相手に信じた」こと、
「常識に従った」こと、
それが諸悪の根源です。

「それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理」
において、相手を信じたらおしまいです。

「それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理」
において、常識を働かせたら死ぬだけです。

他人はすべて信じない。

自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、非常識であっても、怒られても、睨み返されても、合理的に考え、自分の頭で考え抜いた予測や想定を披瀝する。

当然、喧嘩になる。

喧嘩になった場合も当然想定しておく。

そして、後で行う喧嘩を先にやっておく。

先に
「目先の波風」
を立てておかないと、後から津波に襲われます。

「それまで経験したことのない事業や取引や非常識なまでに高額の財産をめぐる処理」
においては、
「自分以外の他人は一切信じず、他者の悪意を予測しつつ、他者の愚考や愚行を想定しつつ、非常識であっても、怒られても、睨み返されても、合理的に考え、自分の頭で考え抜いた予測や想定する」
ことだけが破滅から救い、未来を創り出します。

自分でやり切る自信がなければ、弁護士や専門家を雇えばいい。

なんとなれば、
「ビジネス社会においては、カンニングあり」
なのですから。

優れた人ほど、他人を信じませんし、常識を無視しますし、目先の波風を立てることや、後でする喧嘩を先にしておくことを厭いません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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