<事例/質問>
代々続いた家業を売却するのですが、税理士さんに任せていろいろやってもらっています。
M&Aという割に、ペラペラの契約書で心配です。
もっと分厚い契約書にしておくべきではないでしょうか。
その方が、安心できますので。
<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>
日本の産業界では、長い間、
「信頼関係」
に基づく簡素な契約書が尊ばれてきました。
しかし、市場が縮小し、競争が激化する中で、外資や新興企業の参入も増え、欧米流の詳細な契約書が主流になっています。
これにより、
「ペラペラの契約書では不安」
という声も増えてきました。
とはいえ、分厚い契約書が常に有利とは限りません。
特に
「M&Aの売り手側」
にとって、分厚い契約書は逆効果です。
売り手側にとって最も有利な立場は、
「現状有姿で売り逃げる」
ことです。
詳細な契約書を作成すればするほど、売却後も様々な責任を負うことになります。
したがって、契約書はシンプルであることが理想です。
例えば、会社の実情が思ったより悪くても、見えない債務やリスクがあっても、保証を一切せずに売却することが望ましいです。
契約書には全株式譲渡とその対価のみを記載し、その他の詳細な取り決めは避けるべきです。
法的に問題がある表現が含まれていても、それは買い手側が裁判で不利になる可能性を秘めているため、あえてそのままにしておくのも1つの戦略です。
相手方(買い手側)が簡素な契約書を提案してきた場合、それは歓迎すべきことです。
細々とした契約内容を定めることは、売り手側が自分の首を絞めることになります。
買い手側の提案を無条件に受け入れることで、売り手側の義務を軽減することができます。
「売り切り御免。保証なし」
を明確にする条項を盛り込むことが重要です。
M&A後に買い手から
「欠陥がある」
「話が違う」
などのクレームを防ぐためには、
「アンチ・サンドバッギング条項」(欠陥があるとわかっている場合、後から文句を言えない)
や
「売り切り御免条項」
を契約書に入れておくことが有効です。
また、株券の引き渡しと代金の支払いは完全な同時履行にすることで、買い手側がリスクに気づいて支払いを渋る事態を避けることができます。
分厚い契約書があるから安心できるという考えは必ずしも正しくありません。
取引の内容や相手の信頼性をしっかり確認し、売り手側にとって有利な契約条件を確保することが最も重要です。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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