<事例/質問>
「御社の事業は素晴らしい。極めて有望だ。上場も夢ではない。あなたはIPO(株式公開)に興味はないか? 私はこれまで何社もの上場を支援してきた。私に出資させて、私の仲間も役員に入れ、一緒に上場の夢を実現しないか」
という話が浮上して、出資をしてもらう話が進んでいます。
正直申し上げて、上場とかIPOとか言われてもピンと来ていませんが、でも、とんでもなく金持ちになれる、という話は聞いたことがあるので、やってみたいと考えています。
何か、気にしておくべきことはありますか。
<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>
事業が順調に進むと、高級スーツに高価なネクタイを締めたIPOコンサルタントや公認会計士が近寄ってくることがあります。
「私は上場のプロだ。私が株主になれば、上場間違いなし」
と、
「上場のプロ」
を自称する高いスーツを着て、ゴツい時計をつけ、ピカピカの靴を履いた、知能が高そうなおじさん(筆者の通称「上場おじさん」)の 自信たっぷりの様子に幻惑され 、
「資本政策だの、ショートレビューだの、主幹事選定だの、強制監査だの、遡及監査だの、直前期だの、開示だの、内部統制だの、ブックビルディングだの、有報だの、ロックアップだの、Ⅱの分だの、実質基準だの・・・・」
とまるで、般若心経のような難解な用語を並べ、また、そのような呪文のような専門用語を華麗に操る
「上場おじさん」
の立ち居振る舞いにすっかり魅了されてしまい、出資を受け入れ、役員に迎え入れてしまうことがあります。
しかし、実際には本業が混乱するほどの管理課題を突きつけられ、その対応のために大量の予算を費やし、資金が枯渇し、上場を断念するという話もあります。
まるで、裏口入学で小学校や幼稚園のお受験を頼んだのに、数千万円かけて不合格になるようなものです。
上場を目指すなら、他人に頼るのではなく、自分自身で上場のルールやゲームのロジックを学び、不足するリソースを外部から適正価格で調達し、外注を管理するべきです。
また、上場の目的が脚光を浴びることや知名度を上げること、目立つことなどであれば、上場ステータスに意味があります。
しかし、金持ちになるという目的では、上場は必ずしも最適な方法ではありません。
IPOには夢と現実のギャップがあります。
マーク・ザッカーバーグ氏がフェイスブックのIPOで巨額の資産を得たと言われますが、それは
「持ち株数×株価」
で計算されたもので、現金ではありません。
上場時に創業オーナーが持ち株を多く売ることは難しく、せいぜい換金できるのは5〜10%程度です。
大量に売ろうとすると、証券会社や投資家から圧力がかかり、断念せざるを得ません。
なぜ多く売れないのかというと、大量の持ち株売却は経営から手を引く意思や自社の成長性に悲観的と見なされ、株価に悪影響を与えるからです。
市場は創業オーナーの動向に敏感に反応し、真偽不明な噂でも株価を動かします。
逆に、5~10%程度なら問題にならないという経験則があります。
上場企業になると、経営者の報酬や交際費も厳しくチェックされます。
上場・非上場を合わせた社長の平均年収は3000万円程度で、ベンチャー企業の場合は2000万円前後とされています。
上場企業の経営者でも数億円の役員報酬を得るのは例外で(あの、カルロス・ゴーン氏でも、高額報酬を開示するを遠慮して、それが有価証券報告書虚偽記載罪を犯す遠因となりました)、上場企業の社長の平均年収も2000~3000万円の範囲です。
非上場時は自由だった報酬額や交際費も、上場後は株主や投資家からの厳しい説明責任が求められます。
上場企業は株主のものであり、経営者の自由は制約されるのです。
上場企業になる、つまりパブリックカンパニーになるというのは、こういうことです。
それでいて手元に残るのは、売るに売れないバーチャルな株資産と1~2億円程度のキャッシュ。
正直、割が合わないと思います。
年収が2000万円、3000万円でも、上場企業の経営者になれば付き合いも広がるので、カツカツの範囲でしょう。
「上場する意味がない」
と感じるなら、IPOよりバイアウトを考えるべきです。
バイアウトなら持ち株を全て現金化でき、確実にキャッシュリッチになります。
例えば、時価総額が20億円の場合、全株を売却してその額をまるまる現金化できます。
見ず知らずの他人からの出資を受け入れるかどうか、もう一度よく考えてください。
詳細は、以下をお聴きください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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