02052_機密漏洩_その1

機密漏洩については、裁判所や紛争実務の専門家の間では
「単なる愚痴」
として捉える傾向があります。

長年の研究や製造を通じて培われた技術や、巨大企業の根幹を支える高度な知識が関わるケースでは、裁判所もきちんと評価します。

しかし、ほとんどの中堅・中小企業間の紛争で機密漏洩が問題となっても、裁判所は
「犬も食わない、猫もまたぐ」
といった程度の口喧嘩と見なすことが多いのです。

裁判所が機密漏洩を真剣に取り扱うためには、被害者側は、その
「機密」
が、
・具体的に何の情報で、
・それが価値があり特異なものであるかを明確にし、
・もしそのように重要なものであれば、それに相応する管理や保全がなされていたか、
を示さなければなりません。

また、それにも関わらず漏洩した場合、
・どのような経緯でそれが可能になったのか、
・例えば「ルパン三世」や「キャッツアイ」のような泥棒でも雇わなければ成し得なかったのか、
・そしてそのような事態が起こったにも関わらず、新聞を賑わす刑事事件になっていないのはなぜか、
などを説明する必要があります。

そうでなければ、
「おそらく曖昧で適当な関係の下で、いい加減なビジネスをしていたら寝首をかかれた、裏切られた、というような痴話喧嘩がこじれたものだろう。それは自己責任、自業自得であり、裁判所に持ち込まれても『どっちもどっち』としか言えない」
このような裁判官の心の声が聞こえてきそうな
「紛争形態」
と見なされるでしょう。

経験の浅い弁護士が
「これはひどい、訴えましょう。絶対に勝ちます」
と、当初は勢いよく訴え出るケースがありますが、これは単に、裁判所の実情や相場観を知らない無知・未熟からくるものです。

最終的に、そのような弁護士は依頼者の信頼を失い、
「着手金泥棒」
と罵られることになります。

そのような愚劣な営業トークに振り回されない方が賢明です。

守秘義務違反=ただの寝言、愚痴

というのは、経験豊富な知財弁護士の相場観です(無論、デフォルト設定上の相場観であり、例外もありえます)。

同様に、コピペやパクリも、デッドコピーケースでない限り、違法性を立証するのは難しく、独立して違法認定される可能性は低いです(コメダ珈琲事件は、むしろ、かなり踏み込んだレアなケースです)。

白黒はっきりしない混戦状況の場合、担当する弁護士は経験則から様々な推測をしますが、確実なことは言えません。

正解や定石がない中で、試行錯誤しながら最善解、現実解を見つけるためにゲームチェンジを繰り返す、不安定なプロセスとなります。

最終的には、クライアントがビジネスや利益・リスクを考慮しながら態度決定課題として、果断に判断を下すしかありません。

ただし、競業先に加担していたり協力していたり、あるいは機密漏洩した本人が主体で関与していることが明確である場合、その事実が裁判所の判断に被害者側に有利に働く可能性もあります。

要するに、機密漏洩に関する争いにおいては、機密の定義と特定、保全の方法や管理体制をしっかりと根拠づけて議論しなければ、裁判所は
「どうせ愚痴や寝言だろう」
という偏見・前提認識を持ちますので、被害者側にとって
「相当難易度が高い」
争いになるということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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