契約違反や不法行為、規制違反などで法律相談を受けた場合、弁護士は、相談者の意向を踏まえ、裁判外での解決を図るための交渉環境を整備します。
具体的には、相手に対して攻撃的な質問を行い、後の法的手続きで相手に不利な事実を引き出す戦略が取れるかどうかを慎重に検証します。
この検証には、厳密な証拠までは要求されないものの、少なくとも事実関係の確定が必要です。
特に、事態を迅速に進展させたい場合は、なおさら事実経緯の整理が重要となります。
事実を確認せずに感情的に主張しても、相手に対して効果がないだけではなく、逆にトラブルを悪化させるだけです。
法律的な主張を成立させるには、論理の流れが必要です。法律実務においては、次のような三段論法が基本です。
1 事実がある
2 その事実がルールに反する
3 その結果、法的に非難されるべきであり、ペナルティが適用される
このように、すべての主張は事実に基づかなければなりません。
たとえ事実が存在しても、この論法の起点となる事実が曖昧なままであれば、法律上の主張は成立しません。
事実が曖昧であったり、頭の中にあるだけで整理されていなければ、主張自体が無効になるということです。
事実を明確にアウトプットしない限り、事実が存在しないのと同じことになるのです。
この事実確認のプロセスを省略して感情的に相手を非難するだけでは、子どもが
「お前の母ちゃんでべそ!」
と言っているのと変わりません。
事実経緯の整理には、5W2H(Who, What, When, Where, Why, How, and How Much)を明確にすることが求められます。
事実経緯を5W2Hに基づいて整理することは確かに手間で面倒ですが、これを怠れば、法は一切助けてくれません。
例えば、
「2週間前の昼食を誰とどこで、何を食べ、いくら払ったか」
を思い出すような作業は煩わしいものです。
しかし、事実の喚起と文章化(テキスト化)のプロセスを経なければ、事案は一歩も前進しませんし、無意味な綺麗事を並べた感情的な言い分だけでは、裁判所で
「何が事実で、どのように法律が適用されるのか」
が不明瞭になります。
結果的に、法律実務の世界では
「黙ってろ」
や
「泣き寝入りしろ」
という厳しい現実が待っています。
不愉快で困難な状況であっても、その現実を理解し、その理解の上に早急に行動するしかないのです。
法的な問題を解決するためには、事実経緯がいかに役立ち、今後どのように活用されるのかを理解し、相談者と弁護士が共有できるかどうかが、今後の活動の成否を左右すると言っても過言ではありません。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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