弁護士の関与割合と相談者の経済的な負担は、トレードオフの関係にあります。弁護士としては、まず方向性を確認し、見積もりを設計することになります。
A 基本的なプロジェクト設計と最終仕上がりチェックのみを弁護士が担当し、実行を相談者が行う。
この場合、相談者の時間と労力の負担は増しますが、費用は比較的低く抑えられます。
B プロジェクト設計、実施、レビュー、ファイナライズの全てを弁護士が担当し、相談者はプロジェクト設計や施行の過程で浮上する選択肢をジャッジし、仕上がりを確認するだけでよくなります。
この場合、相談者の時間や労力負担は軽減されますが、費用は高くなります。
「こちらで文章を書きますので、そのチェックを弁護士の目から見てアドバイスがほしい」
というリクエストに対しては、
「チェック」
の意味を定義することから案件を進める必要があります。
「チェック」
の定義については次の2つがあります。
(1)設計図があるので、その設計図どおりに施工がなされているかを監理してもらいたい。
(2)設計図はなく、その作成も考えていないので、適当に何か形にしたものを作ってみるので、その感想やコメントをもらいたい。
もし(1)のまともな依頼要請であれば、前提として
「設計図」
すなわち課題対処上の方針を含めたプロジェクト設計図を相談者側で準備する必要があります。
この種の文書対応には次の5段階があります。
(A)状況と自身を取り巻く環境を理解し、課題もアプローチも把握し、うまく表現する術も持っている。
(B)状況と環境を理解し、課題もアプローチも把握しているが、うまく表現する術がない。
(C)状況と環境を理解し、課題も把握しているが、アプローチがわからない。
(D)状況と環境は理解しているが、課題がよくわかっていない。
(E)状況と環境を理解しているつもりだが、社会的観点や客観的認識が不得手で、独善的で混乱している。
たとえば、前述の
「(1)設計図があるので、その設計図どおりに施工がなされているかを監理してもらいたい」
を
「2日間という短期間で、弁護士に軽負荷(=低コスト)で立証のみ求める」
というオーダーであれば、相談者が(A)のレベルを十全に備えていることが前提です。
(A)のレベルを備えているなら、以下のようなプロジェクト設計図があるはずです。
(a)前提たる状況認識:事実をバイアスなく掌握している。
(b)危機管理の方向性や相場観、環境把握:問題の認識や評価を行い、相談者の立ち位置や見え方を把握している。
(c)目標の設定:具体的な未来図や目標を設定している。
(d)課題の把握抽出:現状とゴールの間にある課題をすべて発見・抽出・特定している。(e)課題への対応上の選択肢抽出:文書を作成する上での方向性を意識し、自己努力で可能な方法論をすべて出している。各方法論のメリット・デメリットやカニバリ(共食い)の有無も考慮している。
(f)選択肢の採否判断:以上の選択肢を基に、結果に責任を負う意思と能力のある人間を選択している。
「正解はなく、最善解しかない」
という状況においては、試行錯誤し、選択を行い、状況を観察するしかありません。
うまく行けばゴールに達しますが、失敗した場合は試行錯誤、ゲームチェンジ、新たなプロジェクトの立ち上げなどを行い、最終的に、諦めるか納得するまで続けます。
以上のような設計図がない場合は、弁護士としては、
「(2)設計図はなく、適当に形にしたものを作ってみるので、その感想やコメントをもらいたい」
という趣旨と理解し、
「こちらで文章を書きますので、そのチェックを弁護士の目から見てアドバイスがほしい」
という相談者のリクエストには、“駄目出し”を行うことになります。
しかし、“駄目出し”といっても、カウンターパートの思考や基準点に立ち、思考実験を行うことで、相談者が新たな情報を得て知的向上が図れるので、その限りにおいては意味がある、といえましょう。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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