02070_弁護士の役割とクライアントの協力体制その2_「総括と振り返りと反省」の必要性

法律専門家の意見や評価が欠けたまま交渉が進められ、暗礁に乗り上げそうだと判明したとたん、弁護士に相談するケースは、実は少なくありません。

その場合、弁護士として、クライアントと交渉関係やプロジェクトの進行を円滑にするために、必須の前提と考えるのは、

1 交渉前に形成された状況や不利な立場となる判断をくだした経緯を、クライアントがどの程度反省し総括できるか

2 問題解決のために「正解」を求めるのではなく、(弁護士が)考え抜いた戦略を正しく理解し、複数の選択肢からベストな対応を、いかに柔軟に考えられるか

3 有事の対応として、チームの構成や運営方法を正しく理解しているか

4 稼働工数について仕事になる程度に(弁護士が損しない程度に)費用が頂戴できるか

5 (弁護士がやる気の出る程度に)適切なインセンティブが設定されているか

ということです。

特に、裏方で助言を行う場合、弁護士は、リスクを勘案の上で選択肢を提示することとなりますが、
・唯一無二の選択肢を信じこんで、その実現にすべてのリソースと勝機を注ぎこむ、というものではなく、
・(相手の出方によってめまぐるしく変遷が予定される)状況と限られた認識と情勢分析能力と不確実な未来予測能力を前提として、「最善の選択を選び、うまくいかなったら、経験値によって、少し賢くなった頭脳をもって、立ち戻り、よりマシな選択や、その際に浮上した新たな修正選択肢を加えて、検討と実施を続ける」という最善解模索アプローチを前提として、
選択肢の形で提示します。

弁護士の重要な役割のひとつは、判断の幅を広げることです。

常識にとらわれない極論やアングルや時間軸や空間軸を一変させた考え方を含め、より広汎な選択肢の形で提示することが、クライアントの意思決定に資するものと考えます。

多様な選択肢を提案するには、判断の前提となる事実認識と情報は不可欠であり、過去のディールの議論をすべて把握し、評価・意見の欠落部分を補完するために、すべての資料分析・必要に応じたヒアリングが必要となります。

もちろん、そのためには、時間的冗長性は必要不可欠であり、クライアントの理解がなければ、前にすすみません。

さて、社会科学を用いて問題を解決する、という手法を取る際、
「人間の想像力や、状況認識能力には、限界があり、常に不完全である」
という前提に立ちます。

言葉を変えると、法律問題を解決する際は、常に、
「不完全な情報と、不完全な能力を前提に、不十分な選択肢を、不完全に選択する、ということの連鎖」
で、最善解に近づけていくことになります。

それには、うまくいかないことが判明した時点で、
「総括と振り返りと反省」
が必須のプロセスとなるのです。

「反省」
には、倫理的な意味や、非難の要素を含みません。

「いかに反省できるか」
は、
「いかに最善解に近づけるか」
ということになります。

「一切、反省しない」
「というか、そもそも反省が許されない」
ということになると、
「正解か破滅か」
という二者択一に陥ります。

情報が不足した状態では効果的にサポートできないのと同様に、
「総括と振り返りと反省」
がなければ
「正解か破滅か」
に陥り、すなわち、失敗のリスクが増大する、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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