民事交渉において主導権を握ることは、成功に直結する重要な要素です。
しかし、それは
「先に意図を示唆するメッセージを出す」
ことではありません。
むしろ、交渉の場面では、先に意図を示唆した側が負け、あるいは限りない譲歩を迫られる可能性が高まります。
言い換えれば、
「しびれを切らした方が負け」
という状況です。
交渉の主導権を確保するには、
「軍事ルート(代理人間)」
と
「外交ルート(本人間)」
を明確に分けて運用することが肝要です。
軍事ルート
・態度:一貫して強固な態度を保ち、こちらからは一切の譲歩やその意思を見せないようにします。
・目的:相手に和解を望んでいないと認識させ、交渉上の譲歩を引き出すことです。
外交ルート
外交ルートはさらに2つの役割に分け、異なる接し方を取ります。
1 事務折衝
・態度:相手にある程度ソフトに接し、「お付き合いモード」を維持します。
・目的:関係維持を重視し、相手に安心感を与えます。このルートは先方も日常業務を進めるために使っていることが多いため、関係を維持する程度の「ややデレデレ」な態度をとります。
2 プロジェクトオーナー
・態度:「ツンツン」とした態度を取ります。ただし、相手が先に明確かつ具体的な条件提示をしてきた場合のみ、「聞いてやらんでもない」という上から目線で対応することです。
・目的:相手に優位性を感じさせないことで、譲歩を避け、主導権を維持します。
ルートの混同を避け、スタンドアロンでの運用を
注意すべき点として、この2つのルートを混同して運用することは避けるべきです。
ルートが混在すると
「軍事ルートでは強気を維持するが、外交ルートでは和平を探る」
という使い分けが難しくなり、先方の暗黙のメッセージが探知しにくくなります(=相手の腹のうちが探りにくくなる)。
それだけでなく、こちらの見通しや腹のうちを相手に読まれ、主導権を握られてしまう危険性もあります。
特に、相手が
「軍事ルート」
ではなく
「外交ルート」
で接触してきた場合は、こちらとしても最大限の警戒が求められます。
「外交ルートと軍事ルートは、それぞれスタンドアロンで運用すること」
を肝に銘じ、慎重に対応しましょう。
ルートの使い分けで交渉を有利に進める
よく見られる事例として、外交ルートの担当者が(これまでの良好な関係などを理由に)うかつに
「話を聞いてやってもよい」
と善意で出てしまい、腹のうちをもらしてしまうことがあります。
これは交渉において
「負け」
や
「限りない譲歩」
を意味する結果になりかねません。
今まで良好だった関係があっても、ルートごとに異なる役割と態度を明確に使い分けることが肝要です。
ルートごとに異なる態度を巧みに使い分け、
「舌を三枚持って」
パイプラインを複数化することで、慎重に先方の思惑を探りつつ主導権を渡さないようにしましょう。
先方も同様に
「軍事ルート」
と
「外交ルート」
を採用していることを忘れず、
「腹の探り合い」
を有利に進めることが、交渉戦略の要となります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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