ビジネスの現場では、
「正解」
が存在することが多く、その正解を見つけるためのルールや手順が整備されています。
たとえば、新商品の販売戦略を考えるとき、過去のデータや市場分析をもとに
「何をすべきか」
が具体的に見えてきます。
このように、正解に向けて効率的に資源を投入しながら進むのがビジネスプロセスの基本です。
一方で、法律問題には、そもそも
「正解」
がない場合が少なくありません。
紛争が起きたとき、
「どちらの主張が正しいのか」
を決めることができる明確な基準がないこともあります。
その結果、解決の糸口が見えないまま、時間や資金だけが浪費される
「手探り状態」
に陥りやすいのが法律問題の特徴です。
森で道に迷ったときに何が必要か?
法律問題を森の中で迷う状況にたとえると、正解が見えないなかで
「この道だろう」
と選んだ進路が間違っていることに気づくことがあります。
しかし、多くの人は
「今さら引き返すのはもったいない」
と考え、進むべき道が見えないまま、
「これで合っている」
と自分に言い聞かせて進み続けてしまいがちです。
このような状況では、正解にたどり着くどころか、事態がさらに悪化してしまうことも珍しくありません。
そうならないためには、進む方向を見直す勇気が必要です。
そして、
「現在の状況を冷静に理解し、まったく別の視点から問題を考える」
ことが重要です。
「発想次元の転換」とは?
この
「まったく別の視点」
を持ち込むのが弁護士の役割です。
戦いで行き詰まったときには次のような段階的なアプローチが必要です。
・素手の殴り合いが行き詰まれば、刃物を持ち出す。
・刃物での斬り合いで決着がつかなければ、飛び道具を使う。
・地上戦でにっちもさっちもいかないなら、空中戦に切り替える。
・空中戦でも進展がなければ、宇宙から全体を俯瞰して新たな戦略を考える。
法律問題においても、これと同じように、
「これまでのやり方」
を見直し、まったく新しい方法や視点を導入する必要があります。
このプロセスを私は
「発想次元の転換」
と呼びます。
なぜ「間違いを認める」のが難しいのか?
ただし、この
「発想次元の転換」
を当事者に受け入れてもらうのは簡単ではありません。
その最大の障壁となるのが
「プライド」
です。
自分の選択や判断が間違っていたと認めることは、多くの人にとって耐えがたいことです。
これは、独裁者に
「お前は裸だ」
と指摘するようなものです。
あるいは、中世のバチカンで
「地球は動いている」
と地動説を主張した科学者が火あぶりにされるようなもので、間違いを認めるのはそれほど辛く、時に激しい抵抗を伴うのです。
解決しない「付き添い」の選択肢
こうした当事者の抵抗を前にしたとき、別の選択肢もあります。
それが
「問題を解決せずに寄り添う」
というアプローチです。
私はこれを
「ベイビーシッティングサービス」
と呼んでいます。
この方法では、問題を根本的に解決することはできませんが、当事者の安心感を得るために付き添う役割を果たします。
しかし、これはあくまで当事者の感情に寄り添うだけのものであり、問題の本質を解決するものではありません。
状況の改善には繋がらないのが、この方法の限界です。
柔軟な解決策が求められる
法律問題はビジネスのように
「正解」
が明確に見えるものではありません。
そのため、正解がない中で柔軟に対応し、新しい道を切り開く発想が求められます。
このプロセスでは、
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
といった多様な戦略が必要です。
弁護士は、状況を冷静に見極め、当事者のプライドや固定観念に配慮しながら、柔軟かつ実効性のある解決策を提示する役割を担っています。
それこそが、法律問題における
「解決」
の道筋なのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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