02094_事実経緯の整理が「攻守の土台」を作る

事実経緯を整理する作業は、感情を抜きにして冷静に行う必要があります。

これは、今後の
「攻撃」

「防御」
のすべての基盤となる重要なステップだからです。

まず、事実経緯をまとめる際に重視するポイントは次のとおりです。

1 登場人物を網羅的にリストアップ

最初に、事件や問題に関係する
「登場人物」
をすべて挙げてください。

相手方だけでなく、間接的に関与している可能性がある関係者も含めます。

名前や立場だけでなく、勤務先や住所などの具体的な情報をできる限り記載してください。

住所が不明であれば勤務先でも構いません。

例:

・相手方A氏:〇〇株式会社勤務、トラブルの当事者
・B氏(第三者):A氏の同僚で、問題発生時に同席
・C氏(証人):トラブル発生時の立ち会い人

このように、できるだけ網羅的にリストを作ることで、物事の背景が明確になります。

2 事実経緯を時系列で詳細に記載

次に、この状態に至るまでの
「経緯」
を細かく、時系列で書いてください。

重要なのは
「細かければ細かいほど良い」
という点です。

日付や時間、場所、発言、行動などを可能な限り具体的に書き出しましょう。

この作業は、言わば、ストーリー作りをするための
「素材集め」
のようなものです。

完成されたストーリーを作る必要はありません。

「これは大したことではない」
と思うような些細な事柄も、意外な形で役立つことがあります。

例:

2024年10月5日:A氏と〇〇カフェで会い、初めて会話する
2024年11月10日:A氏から「△△」という発言があり、気になる内容だった
2024年12月15日:A氏が突然、□□を主張し始める

3 客観的事実に徹する

事実を書く際は、極力
「客観的事実」
だけを記載してください。

病気に例えるならば、医師が
「病名はいいから症状だけ教えて」
と言うようなものです。

感情的な表現や、評価・印象に基づいた記述は避けることが大切です。

ただし、主観的な内容をどうしても書く必要がある場合は、その根拠を示すようにしましょう。

例:

主観的表現の例:「A氏は私に悪意を抱いていると思われる」
その根拠:「なぜなら、〇月〇日のメールにて『△△』と記載されており、また□□の場で直接『××』と言われたからである」

このように根拠をセットにすることで、後に相手方から反論された際に説得力が増します。

4 この整理の目的を意識する

事実経緯を記載する目的は、次の2つです。

・今後のストーリー作りに必要な「材料」を揃える
・相手からの攻撃に対する「反論材料」を準備する

この目的を念頭に置いておくと、必要な事柄の優先順位が明確になります。

弁護士は、そのままこれを出すような愚かなことは勿論しません。

「有利な事実は大きい声で言い、
不利な事実は黙ってスルー、
美しい誤解はそのままに」
ということです。

美しい誤解や曖昧な部分を残しておくことで、後の交渉に活かせる場合もあります。

5 まとめ:冷静に取り組むことの重要性

嫌な記憶や苦しい出来事を振り返る作業は精神的に負担がかかることもあります。

しかし、この
「事実経緯の整理」
は、今後の戦略を立てる上で避けては通れないプロセスです。

冷静に、かつ丁寧に取り組むことで、
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
といった多様な戦術を組み立てる土台が整います。

このプロセスが、攻撃・防御のすべての起点となります。

焦らず、少しずつ整理を進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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