02099_「香港法人なら節税OK」は幻想?裁判で否認された管理支配基準

むかーしむかし、あるところに、日本で木材の卸売業を営む会社がありました。

会社はたいそう繁盛していましたが、稼いでも稼いでも法人税として半分くらいもっていかれてしまいます。

あるとき、社長さんは
「香港は法人税率がとっても低いらしいと」
いう話を聞き、
「これだ!」
と思いました。

「香港に会社を作って、税率の負担を軽くしよう!」

しかし、日本には
「タックスヘイブン対策税制」
というものがあり、適用を受けるためには4つの要件を満たさなければならない、ということがわかりました。

でも大丈夫。

社長さんの会社は、
・事業基準非関連者基準はまったく問題なし。
・実体基準も、香港にオフィスを構え、従業員を雇い、シッピング等の書類作成業務をさせればいいだろう
管理支配基準は、現地に取締役を常駐させれば、一丁上がりだ!

社長さんは自信満々で香港法人を設立しました。

ところが、税務署から適用除外は認められないとして、更正処分を受けてしまったのです。

争点になったのは管理支配基準。

条文上は、
「その事業の管理、支配及び運営を (香港法人が)自ら行っているものである場合」
となっているのですが、税務署は
「お宅の場合、事業の管理、支配及び運営は実質的に日本法人が行っているので、ダメ」
と解釈したのです。

納得がいかない社長さん、裁判で反撃!

社長は当然納得がいきません。

そこで裁判で争うことにしました。

ところが、裁判では税務署が次のような点を指摘し、社長の主張は退けられ、地裁も高裁も敗訴が確定して終わったのです。

税務署が見抜いた香港法人の現状

・香港法人の取締役会や株主総会は、すべて日本法人の本社で開催されていた。

・香港法人の取締役4名のうち3名は日本法人の取締役を兼任しており、香港法人に常勤している取締役は1名だけだった。

・取引条件の決定、輸送、クレーム処理などの重要な業務はすべて日本法人が行っていた。

・香港法人は日本本社に従い、外形的に契約の当事者となって右木材の売買契約を締結し、代金の決済、差金と称する金員の支払及び融資に伴う諸手続を行っていたに過ぎない。

・日本法人が香港法人の取引先に対する前渡金又は貸付金及び船積みごとの取引金額等すべての取引内容をノートに記帳し、各取引先ごとの債権債務を管理しており、香港法人には独自の管理がなかった。

・香港法人の役員の人事や給与改定は、日本法人の取締役会で決定されていた。その取締役会には、香港法人の駐在取締役は出席していなかった。

・香港法人の事務所の借入変更や内装に関する決定も、日本法人の承認が必要だった。

・日本法人は、香港法人の利益から「ノウハウ利用料」の名で金員を受け取っていた。

つまり、香港法人の行うサービス業務の内容は、いずれも日本法人と取引先との間で取り決められる契約の内容により自動的に確定し、定型的に処理できるものばかりでした。

これらの事実から、裁判所は
「香港法人が日本法人から独立して行う業務というものは全く存在しなかったというべきであり、香港法人が本店の所在する香港でその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたものとはいえない」
と判断したのです。

「100%子会社ならどこも同じ」は通用しない

裁判では、社長さんは、
「100%子会社なのだから、管理監督の状況はどこも似たようなものだ」
という主張をしました。

しかし、裁判所は
「条文にそう書いてあるのだからダメ」
と、にべもなく一蹴しました。

要するに、
「香港法人が独立した経営を行っている」
と証明できなければ、裁判所の判断は覆らないということなのです。

管理支配基準のポイント

このケースからわかる管理支配基準の重要なポイントは、次の2つです。

①日本本社からの独立性の度合い
②重要な意思決定がどこで行われるか

子会社である以上は完全な独立性などはあり得ない一方、
「その事業の管理、支配及び運営を自ら行う」
という、相反する要件を満たさなければなりません。

まとめ:管理支配基準は「存在意義」まで問われる

突き詰めていくと香港法人の存在意義そのものの話になります。

管理支配基準を検討する際には、単に要件的な部分だけでなく、どういう位置づけにしたいのか、またそのための管理支配体制はどうするか、という観点での検討が必要になるのです。

税金対策として海外法人を活用する際には、管理監督基準を留意する明確な戦略を考える必要があるという教訓を、この社長さんは身をもって学んだのでした。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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