02104_「契約書をチェックしてほしい」と言う前に! その依頼、本当に伝わっていますか?

「契約書をチェックしてほしい」
という依頼には、その趣旨が多義的で、さまざまな意図が考えられます。

大きく分けると、次の5つのパターンが想定されます。

1 代読の要請(契約書の内容をわかりやすく説明してほしい)

契約書の文言が難解で、自分では理解できないため、何が書いてあるかその概要をかいつまんで説明してほしい、というケースです。

契約書には専門用語や法律的な表現が多く、慣れていないと読み解くのが難しいことがあります。

この場合、難しい表現をかみ砕いて、
「要するにこういうことです」
と分かりやすく説明してもらうのが目的です。

2 契約書の確認・認識のみ(修正不要、内容を把握しておいてほしい)

契約の内容はすでに社内で把握しており、修正やコメントを求めるものではないが、事前に認識しておいてほしいというケースです。

例えば、
・取引相手との関係上、契約内容の修正ができない
・すでに社内で締結を決定している
といった事情がある場合、
「何か問題が起きたときに迅速に対応できるよう、事前に確認しておいてほしい」
という意図でのケースがあります。

3 リスク・アセスメントの要請(リスクがどこにあるのか知りたい)

契約書の内容は理解できるが、
「どんなリスクがあるのか」
を明確にしたい、あるいは、契約書の特定の条項の解釈・運用の結果、当方が具体的にどのような内容・範囲の義務・責任を負うのか教えていただきたい、というケースです。

たとえば、契約書に以下のような条項があるとします。

「本契約の解除については、双方の協議のうえ決定するものとする」

一見すると問題なさそうですが、次のようなリスクが考えられます。
・一方的に解除することは可能なのか?
・ 協議がまとまらなかった場合、どうなるのか?

このように、曖昧な表現がトラブルにつながる可能性があるため、リスクを明確にしてもらうことが目的です。

4 特定の条項の起案依頼(法的に適切な文章を作成してほしい)

契約書に特定の取引条件やリスク回避策を盛り込みたいが、自社では適切な条文を作成するスキルがないため、専門家に作成を依頼するケースです。

たとえば、
・取引のキャンセル条件を明確にしたい
・支払い期限のルールを明確にしたい
・競合企業への情報漏えいを防ぎたい

このような場合、適切な契約条項を作成することで、トラブルを未然に防ぐことができます。

契約書の文言は曖昧だと後で
「言った・言わない」
のトラブルにつながるため、
「どのように書けば意図した内容を正確に伝えられるか」
を考えることが重要です。

5 契約交渉の助言・対策要請(交渉のロジックを考えてほしい)

契約書の特定の条項について、
「この義務や責任は受け入れられないが、どう交渉すればよいか?」
という相談です。

例えば、契約書に
「契約解除の際は、解除する側が違約金として100万円を支払う」
のような条項がある場合、
「この条件では負担が大きすぎるので、緩和したい」
のであれば、交渉の戦略を考える必要があります。

具体的には、
・ 違約金の金額を減額できないか?
・特定の条件を満たせば違約金なしで解除できるようにできないか?
・そもそも違約金の規定をなくせないか?
このような代替案を考え、交渉をスムーズに進めるためのロジックを組み立てることが求められます。

契約書管理のコツ

契約書をチェックした後、大事なのが
「きちんと管理すること」
です(企業法務バイブルの文書管理の箇所でも述べています)。

1)原本(契約書の原文)
2)訳文(日本語訳・英語訳)
3)対照表(原文と訳文を比較できるもの)

この3点セットをしっかり保存しておくと、後で契約内容を確認する必要が出たときにスムーズに対応できます。

契約管理は専門家でなくても可能ですが、企業によっては法律事務所にすべて任せている場合もあります。

重要なのは、
「契約を交わしたら終わり」
ではなく、
「必要なときにすぐ確認できる状態にしておくこと」
です。

まとめ

「契約をチェックしてほしい」
と一言で言っても、その目的はさまざまです。

・契約内容を分かりやすく説明してほしいのか?
・リスクを知りたいのか?
・交渉のアドバイスがほしいのか?

契約書は、
「後でこんなはずじゃなかった!」
とならないための大切なツールです。

サインをする前に、自分が何を知りたいのかを明確にし、適切なチェックを依頼しましょう!

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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