02119_企業法務ケーススタディ:出向か転籍か?社員配置の課題とA社・B社の分離性を保つポイント

<事例/質問>

A株式会社の正社員のうち3~4名が、4月以降、株式会社Bの業務に就く予定です。

この際、A株式会社の社員として在籍したまま出向の形を取ることを考えていますが、以下の2点について懸念があります。

1 A株式会社と株式会社Bが一体とみなされるリスクについて
出向という形を取った場合、外部から見てA株式会社と株式会社Bが実質的に一体の企業であると判断されるリスクはないでしょうか。
特に、健康保険証の提示を求められた場合など、A株式会社に在籍していることが明らかになる場面が考えられます。
会社としては、両社を明確に分離した形にしたいと考えていますが、出向の形を取ることでこの分離が損なわれる可能性はあるでしょうか。

2 出向における労働契約上の問題について
出向の手続きを進めるにあたり、労働契約上の問題が発生する可能性はありますか。
出向に関して社員の同意を得る必要があることは理解していますが、どの程度の手続きを踏むべきでしょうか。
また、転籍の手続きは煩雑であるため、できれば避けたいと考えていますが、長期的に見た場合の最適な対応策についてもご意見を伺いたいです。

以上について、先生のご見解をお聞かせいただけますでしょうか。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

リスク管理において最も重要なのは、リスクを特定し、整理して分解・検証することです。

今回のケースでは、A株式会社の社員を株式会社Bに出向させる際に、
1 両社が一体とみなされるリスク
2 労働契約上の問題という2つのリスクが考えられます。

それぞれについて整理し、対応策を検討します。

1 A株式会社と株式会社Bが一体とみなされるリスク

この点については、あまり心配する必要はないと考えます。

そもそも企業間の関係は、単に社員の出向だけで決まるものではありません。

企業の結びつきは、ガバナンス、ヒト、モノ、カネ、知的財産(チエ)、営業、経理など、さまざまな要素によって成り立っています。

例えば、株式会社BがA株式会社から製品や部品を仕入れている場合、一定の関係性は不可避です。しかし、それだけで両社が一体とみなされるわけではありません。

ガバナンスの面で独立性を確保し、役員の兼任や資本関係に慎重に対応していれば、通常は問題になりにくいでしょう。

ヒトの部分についても、出向という形態自体は一般的に行われているものであり、メーカーが販売会社に社員を応援派遣するケースも珍しくありません。

特に、短期間の出向であれば、企業の独立性が損なわれる可能性は低いと考えられます。

そのため、短期的には出向の形をとり、長期的には新規採用や出向者の転籍を検討するのが現実的な対応策でしょう。

2 出向における労働契約上の問題

出向を行う際には、社員の同意を得ることが重要になります。

そもそも社員が同意していれば、法的な問題はほとんど生じません、

ただし、出向の手続きには一定の煩雑さが伴います。

就業規則に出向に関する規定があるかを確認し、個別の同意書を準備するなど、事前の準備が必要です。

以上の点を踏まえると、現実的な対応としては、以下の手順を取るのが望ましいでしょう。

(1)短期的には 出向という形で対応し、出向契約を適切に締結する。
(2)長期的には 新規採用や出向者の転籍を検討し、徐々に株式会社Bの社員としての体制を整えていく。

これにより、リスクを最小限に抑えながらスムーズに人員の移行を進めることができます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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