日々の業務に追われていると、緊急の案件ばかりに意識が向いてしまいます。
今週の契約書のレビュー、今月の期日対応、株主総会対応、まずは目の前の期日をどう乗り切るか。
ある法律事務所でも、この
「近視眼的なスケジュール管理」
が、大きな失敗につながりました。
日々、慎重に見極めるべき企業案件の相談が次々と舞い込む中、事務所はとにかく目先の売上を追いかけ、片っ端から受任していきました。
大型の契約交渉、組織再編、M&A、労務紛争――とにかく受ければ受けるほど数字は上がる。
そう信じて疑わなかったのです。
そして迎えた半年後――。
ふたを開けてみれば、大型のM&A案件が同時期に3件動き出し、さらに海外とのクロスボーダー契約交渉も重なってしまったのです。
誰ひとり、半年先のスケジュールをミエル化して見通すことができていなかった結果でした。
当然のことながら、人手も時間も圧倒的に不足しました。
各チームはどこも手一杯。ドラフト作成もレビューも間に合わず、交渉の準備が不十分なまま本番に突入してしまう場面も出てきました。
調整は困難を極め、あっちを立てればこっちが立たない状態に。
契約書のミスや抜け漏れが発覚し、クライアントからは厳しい指摘が相次ぎました。
信用はみるみる落ちていき、ついには一部の企業からは契約更新の打ち切りを告げられる事態にまで発展したのです。
依頼者からの入金も遅れはじめ、事務所の資金繰りは一気に悪化。
新規の相談も激減し、現場は完全に立て直し不能の状態に追い込まれてしまいました。
実際、こうして閉業した法律事務所を、これまでにいくつも見てきました。
この失敗の原因は、たった1つ。
目の前のスケジュールしか見なかったことに尽きます。
もし、半年後、1年後までの案件をミエル化し、先回りして人員やリソースを手当てしておけば、ここまで大きな失敗にはならなかったはずです。
企業法務の世界では、事件の規模が大きい分、準備とタイミングこそがすべてです。
だからこそ、経営も現場も、未来の見通しが立たないほど怖いことはありません。
経営は
「今」
だけでは動きません。
未来に向けた布石をどう打つのか。
そこが勝負の分かれ目です。
スケジュールのミエル化・カタチ化・言語化こそが、企業法務を支える経営の土台になるのです。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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