市区町村に対し、何らかの要望を求めた際、その回答がすぐに返ってくることはほとんどありません。
むしろ、
「回答期限の延長」
という連絡が届くことのほうが多いものです。
その際、よく耳にするのが、
「議会に諮った上で回答する」
という説明です。
そして、
「●月●日までには返事をする」
という形で、具体的な期限が伝えられるのが通例です。
しかし、この
「議会に諮る」
という言葉の裏に隠された本当の意味を見誤ってはなりません。
表向きは議会での慎重な審議を経るという前向きな姿勢を示しつつ、実際には
「やらない理由」
を探し始めている場合が少なくないのです。
本来、検討とは
「どうすれば実現できるのか」
を考える建設的な作業であるべきですが、現実には
「できない理由をどう説明するか」
を考える時間稼ぎに変わってしまう場面が多く見受けられます。
特に、予算や住民感情、過去の経緯など、行政特有の複雑な事情が絡む場面では、その傾向がさらに強まります。
この構造は、企業法務の現場でもよく見かけます。
たとえば、取引先から契約書の返答がなかなか届かず、
「現在、社内稟議中です」
とだけ伝えられる場面です。
表向きは
「慎重に検討している」
ように見えますが、実は
「どう断ろうか」
を考えていることが少なくありません。
まさに、理屈をひねり出し、駆け引きが繰り返される交渉の世界そのものです。
市区町村からの回答延期も、まさに同じ構造を持っています。
表面的には
「議会での検討」
と説明されつつ、裏では
「どこかに断れる理由はないか」
「反対意見は拾えないか」
と模索が始まっているのです。
したがって、ただ延長されたからといって、安心して次の連絡を待つだけでは不十分です。
むしろ、この段階こそが重要であり、相手の本音を見極め、次の一手を考えるタイミングだと捉えるべきでしょう。
たとえば、
「どの議会の、どの委員会で、いつ審議されるのか」
「担当課としてはどう考えているのか」
など、具体的な情報を積極的に引き出していく必要があります。
これは、企業法務の交渉でも同じであり、相手の本音を引き出すためには、こちらからも具体的な問いかけを重ねることが肝心なのです。
相手の言葉の表面だけをうのみにするのではなく、その背景にある本当の狙いや意図を見抜く視点が求められます。
情報を集め、整理し、ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化していくことで、はじめてこちらの土俵が固まるのです。
この一手間こそが、要望実現への確かな道となります。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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